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「ミヤコさんって知ってる?」
舗装された歩道を進む度に赤いランドセルが背中で少しだけ揺れる。ミヤコ。苗字でも名前でもクラスメイトにはいない。さん付けしているなら、高学年の人?とにかく知らない。私は首を横に振った。
「どのクラスの子?その子がどうかしたの?」
毎日違うヘアゴムが二つに結えた髪に似合う可愛らしいりおちゃんは、違う違うと私と同じように首を振る。
「みちるちゃん知らないんだ!ミヤコさんはね、ユウレイなの。あっ!でも、怖がらなくて大丈夫だよ!その人が一番会いたい人の姿に見えるやさしいユウレイなんだから」
「やさしいユウレイ…?そんなの本当にいるのかな」
ユウレイと言われて頭に浮かぶイメージに、やさしいなんて言葉はない。髪を振り乱し、目はうつろで、突然大きな声で叫んだりして人を怖がらせようとする存在。私は怖い話もお化け屋敷も苦手だ。
「本当だよ!隣のクラスに転校してきたあこちゃん、知ってる?その子がね、病気で死んじゃったお父さんに会えたんだって!それがミヤコさんだったって言ってたよ。あこちゃんは前の学校の友達からミヤコさんの話を聞いたんだって」
あこちゃん。その子の事は知っていた。六月に転校してきたショートカットの女の子。友達と呼べるほど遊んだ事はないけれど、嘘を吐くような子ではない。どうやら「ミヤコさん」は人から人へ、伝言ゲームのようにその存在が伝えられているようだ。
「うーん…本当にやさしいユウレイなら一度見てみたいけど…私にはもう会えなくて、会いたい人なんていないしなぁ」
まだ誰との別れも経験していなかった。
二度と会えない事実に絶望して、寂しくて、悲しくて、感情がごちゃ混ぜになって胸を潰す事があるなんて知らなかった。
だからすっかり忘れていた。
やさしいユウレイの事なんて。
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