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 藤映の華奢な指に似合うよう、細身ながらも一粒ダイヤが存在感を放つ華やかなものに決めた。誕生日をどのように祝うのかもプロポーズの仕方も具体的なことはまだ何も決められていないけれど、覚悟を決め指輪を購入したら、不器用なりに何とか気持ちの伝わる形を模索して頑張ろうと改めて決心することが出来た。  そんなことを、追加で注文したレモンサワーを喉に流し込みながらぼんやりと思い出していた。 「でも、『男心と秋の空』なんて言うくらいだからー、藍原君、気を付けてねー」  いつの間にか隣の席に移動してきた同期の尾田さんが意地悪なことを言ってくる。モスコミュールを片手にケラケラと笑っているので、随分と酔いが回っているようだ。 「俺はよそ見なんてしないよ」 「ふうん。そんなに彼女のことを想っているなんて、凄いねえ」  そうだ。藤映と付き合ってもうすぐ九年になる。浮気なんて一度もしたことはないし、男友達に人数合わせとして誘われた合コンもちゃんと断った。藤映だって一途に俺のことを想ってくれている。浮気もしてないはずだ。  だから誰に何を心配されようが、これまでもこれからも俺と藤映の仲は変わらない。  結局、俺の話を皮切りに各々の恋愛事情をさらけ合う流れになり、そこから仕事が忙しいだの出会いがないだのと嘆き合いにもなり、映画トークは殆どできなかった。久しぶりに会うのだからみんなの最近のおすすめ映画を知りたかっただけに、ちょっと残念だった。 「二次会行く人ー!」 「そんな若さ、もうねえよ」 「私も帰ろっかなー、明日も仕事だし」 「俺はもう一軒付き合うわ」  時間はまだ二十二時前だけど、明日は休日で藤映が家に来る予定だから今日は早く帰ろう。みんながバタバタと騒がしく帰り支度を始めている中、俺も上着を取ろうとダークグレーのコートを取ろうとしたが、何故か見当たらない。ビジネスバッグは自分の真後ろに置いていたのでちゃんとあるけど、コートだけが消えている。これは誰か酔っぱらったやつが間違えて着てしまったんだろうな。そう思って周りを見渡すと、既に靴を履いてお店の入り口に向かっているショートボブの女子が俺のコートを着ているのが目に入った。  あの後ろ姿は尾田さんだ。  酔っていたし、さっきまで隣に座っていたから間違って俺のコートを手に取って、気付かず着てしまったんだろう。案の定、俺のカバンの隣にはモカベージュのコートが置き去りになっている。
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