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「尾田さん!」
尾田さんのコートを持って店を出ると既に二次会組と帰宅組でばらけていて、流れ解散のようになっていた。尾田さんの姿は見当たらない。二次会組の輪に居ないから、駅に向かって歩いているはずだ。俺は慌てて駅に向かった。
金曜日の夜とあって、飲み屋が並ぶ大通りは人通りが多く、どこもかしこも賑やかだ。途中、駅に向かう後輩たちに「あれ、藍原先輩!何慌ててるんですかー?」、「一緒に帰りましょうよぉ」なんて声をかけられたが、適当にあしらってしまった。人をかき分けるように尾田さんを追うと、駅の改札前でようやく尾田さんに追い付いた。
「尾田さん!」
「あ、藍原君!どうしたのー?」
へらへらと笑いながら振り向いた尾田さんは、まだアルコールが回っているようだ。俺のコートのポケットに手を入れ、ゆらゆらと体を揺らして楽しげに鼻歌を歌っている。
「それ、俺のコート……」
「ん?そうだったー?」
あ、めんどくさい。
直感でそう思った途端、尾田さんはホームに向かってずんずんと歩き始めてしまった。慌てて後を追う。方面が同じでよかった、何とか最寄駅に着くまでに取り返さないと。
藤映のことを思うと、他の女子が俺のコートを着ているなんて誤解されるような状況、直ぐにでも終わらせたい。エスカレーターを上ってホームに着くと、俺はコートを脱ぐよう促そうと試みた。
「あの、そろそろ返してくれる?」
「やだー、寒いもん」
「ほら、尾田さんのコートあるから」
「あ!今、めんどくさいって思ったでしょ!ひどいー」
「めんどくさいって自分で分かってるんだったら、さっさと脱いで」
「脱いでって……藍原君のエッチ!」
「頼むから誤解されるようなこと大きな声で言うな……」
同期と言っても尾田さんとはそこまで親しかったわけじゃない。学生時代、こうして二人で会話することも殆どなかったはず。だからあまり尾田さんの人となりを理解していないんだろうけど、お酒が入るととにかく面倒くさいタイプなんだと確信して正直うんざりした。
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