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 冷蔵庫の野菜室から大根を取り出し、藤映の横に並んで卸した。藤映も俺も、もう七十を超えた。手はおぼつかなくなってきているし、足腰は痛い。藤映はよく膝が痛いと嘆いているし、俺は腰があまり良くない。  こうして二人とも動いていられるのも、あと何年だろう。 「朝食が済んだら少し散歩しよう」 「あら、今日は忙しくなるのに」 「だからこそ、今のうちにゆっくりしておこう。今の時間ならまだそんなに暑くないだろう?」 「それもそうね」  藤映とテーブルを囲み、朝食をいただいた。今日はご飯に味噌汁、それとだし巻き卵だ。  藤映は相変わらずご飯を綺麗に食べる。けれど食は少し細くなってきた気がする。俺も昔はこんな量じゃ足りなかったはずなのに、今ではご飯はお茶碗に軽く一杯程度しか食べられない。  朝は基本的に和食だが、夕飯は洋食や中華ばかりだ。藤映が和食はあまり好まず、洋や中華が好きだからというのが一番の理由だ。だから孫たちも、家に遊びに来るたび「ごちそうだ!」と大喜びする。いかにも子供が好きそうなものばかり作る藍原家は、孫にとってレストランに行くより嬉しいらしい。  ゆっくりと時間をかけて食べ終えると、藤映と一緒に散歩に出た。最初は菫が「家にこもってばかりいないで、足を動かして!」と口うるさく言ってくるので仕方なく散歩をしていたが、季節の移り変わりや生き物、植物の様子を目や耳で感じられることに楽しさを覚え、今では天気のいい日は必ず二人でゆっくりと家の周りや近くの公園まで歩き回るようになった。  今はちょうど通勤や通学の時間帯だ。せかせかと抜かしていくサラリーマンや、騒ぎながらランドセルを揺らす小学生たちの姿を、俺たちは微笑ましく見ていた。 「今日は何を作るんだ?」 「ラザニアと、クリスピーチキン。サラダは実千枝さんが作ってくださるみたいだから、あとは子供たちにサンドイッチかしら」 「喜ぶだろうな」  実千枝さんとは草一の嫁さんだ。きっといつものシーザーサラダを作ってくれるに違いない。そして藤映のクリスピーチキンは孫たちの大好物だ。孫たちが口周りに衣をつけながら嬉しそうに頬張る姿を思い浮かべると、思わず笑みが零れた。
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