4/5
前へ
/23ページ
次へ
 家に帰る途中、近くの公園を通りがかった時にベンチに同年代のおばあさんが腰かけているのが見えた。あの姿はお隣さんに違いない。折角なので、挨拶がてら二人で声をかけに行った。 「雛子(ひなこ)さん、おはようございます」 「あらまあ藍原さん。おはようございます。お二人とも元気そうね」 「いえいえ。娘が足を動かせってうるさいもんですから」 「ふふ、仲が良さそうで羨ましいわあ」  そうだ、他人から見ても俺たちは仲睦まじく幸せに暮らせているんだ。俺は安堵した。 「今日は孫たちが来るので、騒がしかったらごめんなさいね」 「何言ってるの、子供の元気な声が聞こえるのはとっても嬉しいことよ。元気な顔が見られるのは幸せね。楽しみでしょう」 「ええとっても」  藤映は明朗で聞き上手なお隣さんと顔を合わせると話が止まらない。男は蚊帳の外だ。この調子だと何十分もお喋りし続けるだろうから、俺はそれとなく藤映の服の裾を軽く引っ張った。全く、今日は忙しくなると藤映が言っていたのに。  俺が何回か裾を引っ張ったところでようやく話が終わった。藤映に倣って緩やかな笑みを浮かべてお隣さんと別れると、今度こそ家へと向かった。 「夕方、草一たちが来たら、家の中が騒がしくなるぞ」 「耕太も洋太も元気いっぱいだものね。家が賑やかなのはいいことよ」 「来てくれるのは嬉しいけれど、帰った後に疲れがどっと出るんだよなあ」 「でも、幸せな疲れよ」 「それもそうだな」  二人では勿体ないくらいの大きく静かな家は、子供たちが来るだけであっという間に賑やかな空間になる。  あの子たちをあと何年そばで見ていられるだろう。あと何年元気に子供や孫と笑っていられるだろう。孫がみんな二十歳を迎えるまで生きていられるか分からないけれど、少しでも長い間成長を見守っていたいとこの頃思うようになった。 「でもやっぱり、欲を言えば女の子の孫が欲しいわ」 「藤映はよくそれを言うなあ」 「絶対、女の子が欲しいの」 「男の子も元気があってかわいいのに」  俺は軽く笑ったが、藤映は残念そうというより、力強い瞳で遠くを見つめている。藤映は前から女の子を欲しがっている。自分の子供の時は性別にそこまでこだわりがなさそうだったのに、やっぱり男だらけだと女の子が欲しくなるものなのだろうか。  草一の子供は、耕太と洋太の男の子ふたり。菫の子供は、葵という一人息子。孫たちはみんな小学校に上がっている年齢で、草一のところも菫も、更に子供を産もうとは考えていないように見える。藤映は孫を欲しがり続けているけれど、きっと俺たちが生きていようが死のうが、女の子の孫は期待しても意味がなさそうだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加