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 ……女の子の孫?  その時、ふとあることを思い出した。 ――藤映ちゃんのこと、心配で。何とかしたくて、おじいちゃんの過去に会いに来たんだよ。  どうして今まで忘れていたんだろう。遠い昔、俺の孫と語る中学生の女の子と会ったことがある。今と同じような季節に、暑いからと喫茶店に入って小一時間俺と藤映のことを話した。ここ数十年間、すっかり忘れていた記憶だ。  あの不思議な体験を当時も今までも藤映には言わなかった。非現実的な話を藤映が馬鹿にしたり笑ったりすることはないだろうけど、俺たちの未来の話をしてしまうことで藤映との関係がぎこちないものになるのが嫌だった。避けるべき未来のために今を行動するなんて、きっと純粋に相手を好きだと思い合う気持ちだけではいられなくなる。己が抱く気持ちだけでなく、相手から受け取る気持ちさえ疑ってしまうだろう。そんなのは嫌だった。だから言わない方がいいと、ずっと心に秘めていた。  確か女の子は、俺が未来で後悔しているとか何とか言っていた。でも今の俺は特段大きな後悔もない。それは、当時はあの女の子の忠告を胸に留めて今まで以上に藤映を大切にしようと意識していたからなのか。その行動が積み重なって、少しずつ未来を変えていたのかもしれない。もしそうならば、俺とあの女の子の約束は果たされたのだと言っていいのだろう。  けれど。 「藤映」 「なあに?」 「藤映はどうしてそこまで女の子の孫が欲しいんだ?」  あの出来事をしばらく忘れていたから何も疑問に思わなかったけれど、そういえば俺たちに「女の子の孫」はいない。つまり、後悔がないよう気を配って過ごしてきたことで未来が変わって、あの女の子がいない未来になってしまったというのだろうか。あんなに藤映の面影がある、涙を流してまで俺と藤映の明るい未来を願ってくれた女の子が。それはそれで、俺の行動と今の人生は成功と言えるのだろうか。  それともあれは、やっぱり幻か何かだったのだろうか。年を取って経験を積んだからこそ、あの摩訶不思議な出来事は本物だったのだと信じたい。信じたいが、今日の日本においてもタイムトラベルなんて存在しない。時空を超える技術なんて、数十年そこらで生まれる筈がないんだ。  でも確かにそこに存在していた。第六感なんてものは持ち合わせていない、霊感も何もない俺が、が見える筈がない。  もしくはあの子は……。 ――じゃあずっとそのままでいて?  あの喋り方は、雰囲気は、怖いくらい藤映とよく似ていた。  目の前の藤映はいつもと変わらぬ少しミステリアスな雰囲気を纏い、にこやかに微笑んだ。俺の知る藤映のはずだ。 「女の子がいなくちゃ、成り立たないでしょう」  少し陰るその顔に、俺は思わず手を伸ばした。
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