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だとしたら。仮にこの子が本当に俺の孫だとしたら、どうしてわざわざ二十歳の俺のもとへやってきたのだろうか。
未来からやってくるとしたら、過去の自分に選択を誤らないよう忠告したり何か大きな出来事を成し遂げるのを手助けしたりするのが鉄板だと思っている。けれど俺は就職活動する学年でもなければ、結婚や引っ越しといった大きなイベントも特にない。じゃあ何だっていうんだ。何か大病を患うとか、このままだと事故に巻き込まれるとか、命にかかわることだろうか。だとしたら、今目の前に孫はいないはずだ。
じゃあ、どうして。
「……君に聞きたいことが山ほど浮かんでくるよ」
「過去に戻るのは一時間が精一杯なので、時間の許す限りなら何でも答えます」
あ、でも、と女の子は恐る恐る左手を挙げた。
「いつもおじいちゃんとはこんなにかしこまって喋ったことないから、いつも通りに話してもいい……ですか?」
「ああ、それは別に構わないけど」
「ありがとう!松じいちゃん」
初めて笑みを、それも屈託のない笑みを浮かべられて、俺は妙に緊張してきた。この子が中学生だとして、今の俺とは六、七歳しか差がない筈だ。傍から見たらちょっと年の離れた先輩と後輩のようだけど、この子の言うことが正しければ『おじいちゃん』と『孫』なのだ。この子の目に映る俺は、年老いたおじいちゃんの若かりし姿でしかないのだろうか。
「じゃあ、君は今いくつなの」
「中学二年生。十四歳だよ」
「どうしてここに来たの」
「藤映ちゃんのこと、心配で。何とかしたくて、おじいちゃんの過去に会いに来たんだよ」
「今すごく、俺の将来の結婚相手をさらっとバラされた気がするよ」
藤映は彼女の名前だ。そりゃ三年も付き合っていれば今更別れようなんて考えないし、出来れば藤映とは末永く付き合えればいいなと俺は思う。だから将来の俺が藤映を結婚相手に選ぶことにはさして不満はないけれど、本当に藤映一人だけを愛し続けていくのかと思うと何だか変な気分だ。それにまだ二十歳の俺からしたら、結婚とかそういうことはまだまだ無縁だと思っていたから実感もない。
「てか、藤映おばあちゃんじゃないの?」
「藤映ちゃんは老いている自分が嫌だから、おばあちゃん呼ばわりされたくないんだって」
「ああ、なるほど」
「いつまでも女らしさを失いたくないって、口癖のように言ってるの。美意識の高いマダムって感じだよ」
それを聞くと、この女の子が俺と藤映の孫だってことが物凄くしっくりきた。いかにも藤映が言いそうなことばかりで得心が行く。
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