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改めて女の子の顔立ちを見てみる。
全てを吸い込むんじゃないかってくらいに黒く大きな瞳に、吊り上がっているわけでもないのにキリリとした平行な眉。濃い顔立ちで、たまに陰るその表情は見る人を惹き付けるようで、言われてみれば俺の彼女にそっくりだ。
段々と信憑性が増してきた。どうやらこの子は本当に、俺と藤映の孫らしい。
「藤映が心配ってどういうこと?何かあったの?」
もうこの際、この子の言うことは全て信じよう。例え嘘だったとしても、話を聞くくらいなら実害もないだろう。
「詳しいことは話せないんだけど……」
そう言うと一度口を噤み、何かを考えあぐねるような顔を見せる。(少なくとも俺にとっては)初対面なのに、ここまで突拍子のないことを言い出せるくらいなんだから、もう躊躇うことも何も無いだろう。何を今更。
もしくは、言い出しづらいほどのことが未来で起こるというのだろうか。
「あの、その……」
顔立ちは藤映の面影があれど、もじもじとするそのしぐさは中学生らしい。
「うまく言えないんだけど、その、……藤映ちゃんから離れないであげて!」
そう言い切った女の子は再び涙ぐんでいる。ああ、やっぱり女の子の涙は苦手だ。よっぽど俺が未来で酷いことをしでかしているんじゃないかって、何だか責められているような気分だ。
「将来、松じいちゃんが猛烈に後悔しているの。私たちの『今』を変えてほしい。お願い」
「そんな抽象的に言われても、どうしたらいいのか分からないよ」
「藤映ちゃんを大切にして。ずっと、ずっと」
女の子はオレンジジュースを一気に飲み干し、涙をごまかすように窓の外に目を向けた。
女の子に改めて言われなくても、俺は今だって藤映のことを大切にしているつもりだ。あくまでつもりだから、今の俺に藤映が満足しているのかは分からない。藤映が俺に対する不満がゼロだと思うほど慢心もしていない。
けれど、俺と藤映なら何かあっても話し合うことは出来る。いつも甘えたで俺の前では泣き虫な藤映でも、俺に対して言いたいことがある時はちゃんと言える人だ。
でも、それは今の話。
この子の言っていることは未来の俺に対してだから、いつか俺の考えが傲慢になったり藤映のことをないがしろにしてしまう日がやってくるのかもしれない。……違う、この子の『今』ではすでにその日がやってきているんだ。
「よそ見なんてしちゃだめだよ。ずっと藤映ちゃんを大切にするんだよ」
「ちょっと待って、俺は未来に浮気でもしてるの?」
「そんなことするような人なの?」
「しない……はずだよ、少なくとも今の俺は」
「じゃあずっとそのままでいて?」
少し語尾を上げて甘えるような声でお願いしてくるところが、本当に藤映にそっくりだ。
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