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 いくら注目度の高くない大学のミスコンだといっても、参加者が彼氏持ちだと知られるとあまり良くないし、ネット上で炎上でもしたらミスコンの結果だけでなく藤映の私生活にも悪影響を及ぼすと俺は危惧した。そしてそれは藤映自身もよく分かっていた。  会う頻度を減らして、その分連絡を取り合う回数を増やす。藤映が不安なら何度も電話をかけたし、デートも人の多い場所や大学の近場はなるべく避けるようにした。  本当は俺だって周りを気にせず藤映と会いたいし、長い時間一緒にいたい。けれど我慢して応援するのは、藤映の密かな夢を俺は知っていたから。 「最後の小さな可能性に挑戦したかったんでしょ?」  そう言うと、藤映は泣きながらも力強く首を縦に振った。  藤映の夢は、モデルかアナウンサーになって華やかな世界で活躍すること。確かに藤映は身長一六七センチと女子の中ではそこそこ高い方で、はっきりとした濃い顔立ちは群を抜いて綺麗だ。コロコロと変わる愛らしい表情の中に時折見せる深みのある表情は、目元のほくろの印象も相まってミステリアスな雰囲気を感じさせる。藤映は自分の魅せ方を分かっているし、そのための努力も怠らない。人を惹き付ける才能は十分に持ち合わせている。  それに、藤映は小学生の頃に女優に憧れて少しだけタレントスクールに通っていた。その時一緒に学んでいた子が、今はMADOKAという名前で人気雑誌モデルに上り詰めており、今でも時折連絡を取っては羨望と嫉妬の念に駆られて悩んでいるのをよく知っている。  けれど、藤映の家はあまり裕福ではない。家庭環境が複雑で、タレントスクールに通い続けることは叶わなかったし、注目度の高いミスコンを開催する私立大学へ進学するほどの経済力もなかった。  現実問題、自分の夢を叶えることが難しいことも、家のことを考えたら早く安定した職に就いた方がいいことも藤映は十分に分かっている。けれどどうしても、最後にこのチャンスに飛び込んで挑戦してみたいと、強い眼差しで言い切ったその姿が俺は強く印象に残っている。これで駄目ならきっぱりと諦めるし、けじめをつけるためにも頑張りたいと。  だから俺は藤映を全力で応援したい。 「しょーくんはいつも私の背中を押してくれるね」 「彼女がこんなに頑張ってる姿を見て、応援しないわけないでしょ」 「……じゃあずっとそばにいて?」  その言葉に俺は、ふと数週間前の出来事を思い出した。 ――じゃあずっとそのままでいて?
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