3/3
前へ
/23ページ
次へ
 結局、あの女の子とは本当にそれっきりで、そういえば名前さえ聞かなかったんだなと後からぼんやりと思った。あの日の出来事は何となく他の人に言ってはいけない気がして、俺の心の中に留めている。  藤映から離れないであげてと言われたけれど、むしろ逆なんじゃないかと俺は思う。こんなに綺麗な顔立ちで、自分の意志をしっかりと持っていて、夢に向かってひたむきに努力する藤映に、俺は釣り合っていなんじゃないかとよく考える。藤映は俺のことを好きでいてくれるけれど、藤映が執着するほどの魅力が俺にあるとは思えないし自分に自信もない。  つかみどころがない、気まぐれ。  よく言われるその評価に自分も同意する。そのせいで藤映を不安にさせてしまったことも何度かある。そんな俺と一緒にいて、藤映は嫌にならないのか。 「……俺はずっとそばにいるよ」  自分に自信がなくなって、藤映が遠く離れた先に進んでしまっているような、自分は取り残されて藤映は華やかな世界へ行ってしまったような、そんな錯覚を思い浮かべては自分の現状に無性にイライラしてしまうことだってある。俺だって映像クリエイターになりたくて芸術学部映像学科に進学して、日々自分なりに勉強しているつもりだけど、俺の努力って藤映と比べたら「そこそこ」なんじゃないかって焦ってしまうことだってある。  一人で勝手に焦ってもやもやとした感情を抱いて、でも藤映の邪魔をしたくないから何も言えずにいる彼氏を、藤映はいつか呆れてしまうんじゃないか? 「藤映こそ、俺のそばにいてね」 「私はしょーくんとずっと一緒にいるよ!ずっと、一緒だよ」  藤映が俺の首に腕を回して抱き着く。俺も藤映をしっかりと抱きしめる。  色々なことを考えたって結局は藤映の温もりを感じると全てがどうでもよくなって、悩みなんて忘れてしまう。一緒にいてもう三年も経つのだから、隣にいるのも抱きしめあうのも当たり前になっている。俺は藤映の隣にいられれば何だっていいとさえ思えてしまう。 「でも、こんな夜遅くに女の子ひとりで外にいるのは危ないから、次からはせめて事前に連絡して。迎えに行くから」 「……私のこと心配してくれるの?」 「当たり前だろ、藤映を危ない目に合わせたくないんだよ」 「……しょーくん、好き。大好き」 「うん、俺も好きだよ」  ああ、こうして俺はどんどん藤映から離れられなくなっていく。のめりこんで、はまりこんで、どんどん俺の心の一部になっていく。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加