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三
本当に厄介なことになった。タイミングの神様に見放され、誤解という誤解が積み重なって大きな穴に突き飛ばされた気分だ。
大学時代のサークルの集まりが久々にあり、前回の集まりが仕事で参加できなかったから今度こそはと、必死に仕事を終わらせて待ち合わせギリギリに参加した。
映画鑑賞サークルとは名ばかりでいわゆる飲みサークルだったらどうしようかと思っていたが、意外とちゃんと映画が好きな人が集まっていた。活動は緩いながらも毎月テーマに沿った題材の映画を皆で鑑賞し、感想や評価を好きに語り合った。自分ではチョイスしない映画を観れること、自分以外の映画好きの人と感想を語り合えることが俺にとって新鮮で、気が付けば四年間殆ど休むことなく活動に参加した。
今日は、かつて新歓や追いコン、学祭の打ち上げの度に押しかけていた大学近くの大衆居酒屋に、懐かしいメンバーが揃った。全員参加とはいかなかったが、ここ五年以内に大学卒業したOB・OGのうち過半数はこの場に集まっているように見える。店内奥の座敷部分をほぼ貸し切り状態で、かつての青春を共にした先輩や後輩、そして同期たちと酒杯を傾けた。
「あれ、紫垣は?」
「紫垣さんは仕事が煮詰まっていてこれないらしいよ」
「シナリオライターだっけ?」
「凄いよなあ。あ、醤油取ってー」
「コークハイ頼んだの誰ー?」
このわちゃわちゃとした雰囲気が既に懐かしい。大学を卒業してもう三年になる。後輩の紫垣さんは元々脚本家や演出家に憧れていて、今はシナリオライターとして働いている。一つ上のユカリ先輩は表舞台で活躍したいからと様々な劇団のオーディションを受け、半年前に遂に合格し念願の劇団員になったらしい。
映像関連、演技やパフォーマンス関連、メディア関連。映像学科ならではの就職先に勤める人もいれば、映像には直接的、あるいは間接的にも関連のない一般企業へ就職する人も多い。
俺はというと、
「藍原は仕事、どう?映像クリエイターって忙しそうだな」
「まあうん、それなりに忙しいよ」
何とか映像制作会社に入社でき、映像の加工等を行う編集オペレーターとして毎日奮励している。時期や案件によってはかなりハードな時も多いが、興味のある分野でやりがいがある分踏ん張れている。
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