アホシリン

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「薬には治験というものが必要だ。実際に作用があるのか、または副作用があるのか調べる必要がある。そこで、きみに一つ、この薬を服用してもらいたい。そしてデータをとらせて欲しい」  差しだされたのは、薬のカプセルだった。なんの変哲もない、薬局などに売っている薬と一緒だ。 「なんの薬ですか?」  教授はほとほとあきれたような一瞥を俺に向け、溜息をついた。 「アホシリンだよ。これを飲めば、きみのアホもきっと治るに違いない。私の長年の我慢も報われよう」  そこに来客を告げる電話が鳴り、教授が席をはずす。残された俺は、渡されたカプセルを眺め、少し考えた。  これを飲んだらアホは治るかもしれない。けど、もし変な副作用が出たら……。急に怖くなった。いくらアホでも身の危険ぐらいは感じとれる。  俺は研究室を見まわし、アホなりの知恵を必死に働かせ、飲まずにすむ方法を探す。ふと教授の机にあるコーヒーに気づいた。俺はいいことを思いつき、カプセルの中身をそのコーヒーに混ぜた。
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