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「と、いうことがあったんだけど」
「ふーん……」
昼休みの教室は酷く煩い。私が語り終えると、親友である真乃は興味もなさそうに携帯をいじくりながら言った。
「ちょっと、真面目に聴いてる!?」
話が聞こえていなかったわけでもないのに、随分と冷たい態度だ。私はぷう、と頬を膨らませる。
「そりゃ、特に何か怖いことが起きたってわけじゃないんだけどさ!話はこれで終わらないんだってば!」
「何?そのおじいさんがまた現れたとか?」
「じゃなくて!お礼!その人以外にも毎日のように言われるようになったの!それも、一日に多いと三回くらい言われんだよ!?さすがに不気味じゃん!」
そうなのだ。この件は、一人にお礼を言われた、で終わっていない。この老紳士に感謝を告げられたのを皮切りに、毎日のように見知らぬ人に声をかけられてはお礼を言われる、ということを繰り返すようになったのだ。それも、大抵が身なりのしっかりした、いかにも紳士淑女といった男女が大半なのである。
『ありがとうね、お嬢さん』
『本当にありがとうございます』
『あなたに感謝しています、ありがとうございました』
『ありがとな、恩に着るぜ』
『ありがとう……本当にありがとう!』
『貴女は素晴らしい人だわ。ありがとう、どうぞご自分に誇りをお持ちになってね』
『なんとお礼を言えばいいのかわからない。ありがとう、本当にありがとう、お嬢さん』
こんな具合だ。若い人もいないわけではないが、ほとんどが上品な人ばかりなので余計わけがわからない。怪しい新興宗教とか、どこぞのヤンキーとか、そういう雰囲気も一切ないのだ。中には外国人っぽい人に、カタコトで“アリガトウゴザイマス”を言われたこともあったほどである。まったくもって意味がわからない。
「不気味って言うけどさぁ」
私とは真逆な性格の、見た眼も中身も派手な友人は。やや呆れたように私を見て言った。
「なんか、まずいことあんの?お礼言われるだけっしょ?アタシなら、なんとなーくいい気分になって終わるだけだけど?どっかでアタシいいことしたかもーって思っておけばよくね?」
「……そりゃ、数人ならそう思ったかもしれないけどさあ。ふぁぁ……」
「お、でっけー欠伸ですこと。朱里、マジで寝不足?部活動そんなに忙しいわけ?」
「忙しいに決まってるよ、大会もうすぐなんだもん。ネット際のボレーが全然うまくできなくて……ってもう、話逸らさないでよ!」
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