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――ばーか。
ああ、本当にムカつく。
彼女が友達でなければ良かった。楽しい話題も明るい声も、彼女が相手であると何もかも黒く濁っていくのだから。
――ほんっと、朱里。あんたって、人を苦しめるのが得意だよね。
笑顔の仮面の下。アタシがどれほど憎悪をたぎらせているか、目の前の女は一切気づいていないことだろう。
彼女に見えない位置で握るスマートフォンでは、とあるアプリが開いた状態になっている。表示されているのは、朱里の写真。それから残り少なくなっている体力表示と、“十人へのご提供達成!”という文字だ。それだけ見るとゲーム画面か、あるいは献血か何かのアプリであるように見えることだろう。
実際は、違う。
なんせこのアプリに目の前の女を無断で登録したのは、他でもないこのアタシなのだから。
――マジ、ずーっと眠そうだよね朱里……顔色もめっちゃ悪いし。でもって、お礼を言われまくってるのも事実っぽい。……本物だったんだ、このアプリ。まあ、本物だとわかったところでやめてやるつもりなんざないんだけど。
一体、どこの誰が開発したのだろう。
登録者の寿命を、他の誰かに分け与えることができるアプリなんて。
病気などで寿命が尽きかけた人が、課金と引き換えにその登録者の寿命を分け与えてもらえることができるシステムなんて。
一体何がどうなっているのかさっぱりわからない。寿命を朱里から貰った人が彼女の元に軒並み現れてお礼を言っていることからして、朱里にお礼を言いに行くこともなんらかのトリガーになっているのかもしれない。自分に命を分け与えてくれた相手だ、身なりをしっかりして逢いに行こうというのも至極当然のことなのだろう。
名前や年齢、誕生日などのある程度のパーソナルデータが揃えば、第三者でも登録者にできてしまうのがこのアプリだ。朱里は何も知らない。自分の命が、少しずつ第三者に吸い取られ続けていることなんて。アタシがそれを仕組んだなんて。
そして、そういうことをしても罪悪感が湧かないほど、アタシに恨まれてるなんて。
――あんたが、蒼人と付き合ったりしなきゃ。アタシは、何も見ないですんだってのに。
蒼人と別れていたのは確かだ。でもそれは、彼が嫌いになったからじゃない。思うように愛情を示してくれない彼に悲しくなったからである。本当は、今でも蒼人のことが好きだった。いつかもう一度やり直せるかもしれない、そう思っていた矢先のこと。――ああ、朱里が好きな相手が蒼人だと知っていれば、あんなおまじないなんて教えてあげなかったのに。
何より。自分と一緒にいる時には絶対に見せなかったような、あんな蒼人の笑顔を知らずに済んだというのに。
――悪いのは、アンタよ朱里。よくもまあ人の元カレと付き合っておいて、平然と親友ズラできるもんよね。
「そっか。……うん、そうだよね、今度試してみる!ありがとう真乃」
「どーいたしまして。ま、頑張ってみ?でもってアタシにはちゃーんと成果報告してよねー」
「はーい!」
蒼人は、電話をされることそのものが嫌いだ。それがわかっていながら勧めたアタシは、心の中で歪んだ笑みを浮かべる。
――嫌われちまえ。とっとと地獄に堕ちろ。
提供を継続しますか?
表示されているアプリのボタンを、アタシは笑顔でクリックしたのだった。
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