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扉を閉めると、男は廊下を早足で駆ける。すれ違いざまに休憩室で、ターゲットの医者がうたた寝をしているのを見つけ、時間をチェックした後にボールペンもどきを打ち込んだ。医者はゆっくりと永遠の眠りにつく。これでここでの仕事は一段落がついたが、心は晴れなかった。廊下を歩きながら、やるせなさに、深いため息が出てくる。
「私なら、私なら……」
ブツブツとぼやきながら、やがて壁にぶつかり、方向転換をしようとしたところで、力なく脚が止まった。
色んな事が、したかったんだけどなぁ。
少年の声が頭の中に反響し、手は無意識に、タブレットを取り出していた。
中のリスト……殺さねばならない人ではなく、それ以外の、この病院にいる人たちをチェックしていく。やがて少年の顔写真を見つけ、タップすると、文字の羅列が画面を埋め尽くす。男はそれを上から順番に読み進めた。
「……生後五ヶ月で入院……そのまま病院暮らし……両親の見舞いが、最初は毎日、今は週に二回……十五才の時に……」
そこまで読んで、男は一度目を瞑る。そして再び目を開くと、重い手つきでいくつか画面を操作した。別の文字列が次々と表示されていく。それを追う男の目は、やがて驚愕で見開かれ始めた。もどかし気に文字列のページをめくり、最初の何十倍もの時間をかけて、文章を読み耽る。
読み終えた時、その表情は、病院にいた間の中で一番明るいものになった。
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