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刀剣蒐集家・ビアンカ。剣を集めながら旅をしている凄腕の剣士らしく、名前と噂だけならティグリスの都にも伝わっていた。
錆びた剣一本で鋼の皮膚を持つ鉄食人を一刀両断にしただとか、剣に乗って空を飛んだだとか、活躍の地が遠方だったために噂に尾鰭がついて嘘か本当か分からないような逸話ばかりだったから気に留めていなかったけれど、アベストスはアルマがその人物なのではないかと思ったようだ。
でも、彼がすぐに思い違いだと断じたのはその噂のビアンカが女性だからという理由に他ならない。
「刀剣蒐集家・ビアンカか。あなたからその名前を聞くまで頭の片隅にもなかったけど、確かに彼とは共通点が多いわね」
中世的な雰囲気、抱きついた時に感じた体つき、ピンチになった時に出る女性的な口調……思い返せば、心当たりは一つだけじゃない。
父があの時二人で旅立つことを許してくれたのも、彼が女性だと看破していたからなのかもしれない。
もし万が一、アルマの正体がビアンカという女剣士なら、当然私の花婿になることはできない。
そうなったら、消去法で残るのはアベストスだけになってしまう。
まあ、それは花婿選びをするならばの話だけど。
「そんなことより、先を急ぎましょう。流石のアルマでも一人であの竜とプラムを相手取るのは危険よ」
いくら考えても答えがはっきりとしない問いを、いつまでも考えていたって仕方がない。
会話をするのについ立ち止まっていたけれど、私は旅の目的を思い出し、アベストスの手を引いて歩き出した。
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