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「まずはピエール!あなたからよ」
「俺?トリでみんなをあっと言わせるつもりだったけど、ルナお嬢様の御指名とあれば一番手で驚かせてやるぜ」
1人目はピエール=グレイル。重厚な鎧を身に纏った長身の彼は、輝石の聖杯を守護する聖騎士の一族の末裔だ。
元々は遥か北にある神殿の番人をしていたけれど、退屈な日々に嫌気が差して、守るべき聖杯を持ち出し旅立ったのだという。
「金剛宝樹が生えるのはこの世とあの世の境界に流れるという川のほとりだ。俺は崖から飛び降り敢えて仮死状態になり、そこで見つけた黄金の大木から一本の枝を取ろうとした。だが、魂だけの存在となった俺には触れることすら叶わず、泣く泣く現世に帰って来たって訳だ」
成程、この世に実在しない宝物だから嘘もつき放題というわけか。
「だが、記憶の中には鮮明に、美しい金剛宝樹の姿が刻まれている。俺はそれを、記憶が新しいうちに一枚の絵画に描くことにしたんだ。見て欲しい」
彼は持ち込んだ大きな板に被さる布を勢いよく外した。
黄金の額縁の中には、私が口頭で彼らに伝えた特徴そのままの金剛宝樹が描かれていた。
「この樹に出会う時は、即ち死ぬ時だ。俺と一生を添い遂げ、いつか年老いてこの世を去る時、一緒に実物を眺めようじゃないか」
それにしても、この男の話術は毎回巧みなものだ。もし何も知らない乙女ならまんまと信じてしまうのだろうけど、雇った探偵が集めてきた情報で彼の実態を知る私には、お得意の"美しい嘘"が女を落とす常套手段であることはお見通しだった。
遊び人気質の彼は無類の女好きであり、甘いマスクと陽気な性格で何人もの恋人を作っては泣かせてきた女誑しだ。
きっと、こういう部類の男は私みたいに簡単に手の届かない女ほど落としたくなるんだろうけど、いざ結ばれると熱が冷めてしまうに違いない。
「それはピエールが描いたの?」
「勿論。親父が健在の時は旅立つことを許してもらえず退屈な日々を過ごしていたから、絵ならよく描いていたんだ」
人というのは相手が持つ意外な特技を知ると少なからず魅力を感じてしまうものだ。
「もし俺を選んでくれたら、絵画のコツをたっぷりと丁寧に教えますよ?ルナお嬢様」
「結構よ。別に画家になりたい訳じゃないし」
彼が女を不幸にするタイプの男だと分かっているにも関わらず候補から切り捨てられないのは、背負った宝箱の中身が不老不死の力をもたらす聖杯だからという理由だけではない。
彼にとって私は、家柄上攻略難易度が異様に高いということを除けば他の女性と大差ないに違いない。
それはある意味、こんな私でも対等な存在として扱ってくれているということであり、彼が他の男とは違うところなのだ。
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