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鳥人は、卵から生まれた時はごく一部の雄を除いて皆殆ど変わらない姿と能力をしているが、その中から最も強い生命力を持つ個体は女王から私たち人間が"暗算石"と呼ぶ秘宝を授けられ、次の女王へと成長する。
暗算石の秘める魔力は絶大で、それを持った個体は通常の倍の体躯と力、知能を手に入れるという。
雄が雌よりも弱いというのは私にとって新事実だったけれど、女王の存在や暗算石についてなど、鳥人についてある程度の知識は持っている。
そして、たった今姿を表した一際大きな鳥人が女王であることは初見ですぐにわかった。
「遂にお出ましか、鳥人の女王」
納めかけた霊刀ドルフレーゲンの露を帯びた切先を向け、威嚇するように鋭い目を向けるアルマ。
「今度の獲物は随分と細身で食べ応えのなさそうな体をしているな。この爪で抉れば一撃で葬れそうだ」
弱そうな私たちを見下ろしながら鼻で笑う女王。地面に食い込んだ両足の爪は太く長く、そして鋭い。ピエールの重装備が容易く引き裂かれるのも頷ける。
「残念だけど、私たちは餌になりに来たわけじゃない。暗算石と輝石の聖杯を頂戴しに来たのさ」
私は女王の放つ威圧感に足がすくんで動けなくなってしまいそうだったが、アルマは一歩も引かずに睨み返し、強気な姿勢を崩さない。
「ならば、力尽くで奪ってみるがいい」
女王は身の丈の更に倍はあろうかという巨大な翼を広げると、地に足をつけたまま羽ばたき始めた。
「ルナ、私に掴まれ!」
私は言われるがままアルマの体にしがみついた。あれだけ強い彼だけど、コート越しに感じた体つきは女性のようにしなやかで、思いの外頼りなさそうだ。
案の定、アルマも私も目一杯の力で踏ん張ろうとしたが、敵が巻き起こす風によって2人分の体重でも容易く吹き飛ばされてしまった。
「……っ!」
私は一瞬空を飛んだような感覚になった後、岩壁に叩きつけられて地面へと落ちてしまった。本当に痛い時は声すらまともに出ないものだ。
「大丈夫か?」
アルマも同様に飛ばされ背中を岩壁で強打していたはずだが、自分の痛みを他所に私の心配をしてくれている。
しかし、ダメージが相当大きかったらしく、彼は呼吸が乱れて足取りもややふらついていた。
アルマがこんなに苦戦するなんてーー私は彼がここまで追い詰められている姿を見るのは初めてだった。
今の彼に、私を守りながら戦う余裕なんてないということは明白だ。私は彼にとって足手纏い以外の何者でもない。
だから、覚悟を決めた。
「アルマ! 私のことは構わないで、自分が勝つことだけを考えて!」
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