4. 不死なる女王

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 自分の命は自分で守る。生き残るためにはこれしかない。  そう心に決めた私は、地面に体をぴたりとくっつけるように伏せた。  その姿を見た彼は、安心したように微笑んで女王へと立ち向かって行く。  先程の強風で私たちは飛ばされてしまったが、地面に倒れていたエンビだけは無事だった。それを見ていた私は、匍匐(ほふく)状態なら風くらいは凌げると踏んだのだ。  「懲りない奴め。何度でも飛ばしてやろう」  女王は再び力強く羽ばたくと、巻き起こる突風がアルマの体を浮き上がらせる。  「同じ手は通用しないよ?」  飛ばされた体が激突する寸前で態勢を整えて岩壁を蹴り、その勢いのまま女王へと一気に駆け寄るアルマ。私がしがみついていた先程とは違い、1人になったことで彼は持ち前の軽い身のこなしを発揮できるようになったのだ。  「今度はこっちの(ターン)だ」  女王が次の攻撃へ移ろうとする間も与えず、アルマは急接近からの斬撃を喰らわせる。  「……くっ」  霊刀ドルフレーゲンによる一撃は女王の胴体へと見事に直撃するが、水の精霊の加護によって一切の血を帯びていない……否、よく見ればそもそも血など出ていない。  「くっくっくっ、痛くも痒くもない。そんな鈍刀(なまくらがたな)で妾を斬れると思うたか?」  「何っ?」  女王は攻撃直後の無防備になったアルマに蹴りを炸裂させ、大きく弾き飛ばす。  「妾の羽毛は鋼の如く硬い。並の人間が並の武器で攻めたところで傷一つつけられぬわ!」  地面に叩きつけられ、口から血を流すアルマ。  圧倒的な力を持つ女王の前では、凄腕の剣士であるアルマも、炎を斬る霊刀も、並の人間と並の武器に過ぎないというのか。  私はこの絶望的な状況に勝利を諦めてしまいそうになったが、アルマはまだ戦う意思を捨てていないようで、ふらつきながらも立ち上がる。  「……確かに、私はただの人間だし、この霊刀は炎を無効化できて刀身が汚れないことを除けば普通の刀と変わらない斬れ味だ。だけど、こっちの刀ならどうかな?」  アルマはドルフレーゲンを納めると、反対側の鞘に眠る刀の柄に手を掛けた。  そう言えば、左腰の刀はまだ見たことがないけれど、聖女の大剣(ローズマリーゴールド)水の霊刀(ドルフレーゲン)に匹敵する凄い力を秘めているに違いない。  フィクションに出てくるヒーローというものは、絶望的な状況からでも必ず巻き返して最後は勝利を掴み取るものだ。  私の目には彼がまるで大好きな冒険物語の主人公のように輝いて映った。  「アルマ、勝って!」  彼は遂に、3本目の刀剣を鞘から解放した。
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