16人が本棚に入れています
本棚に追加
アルマの言いつけ通りに無我夢中で出口を目指していると、小さくなった背中に突然押し倒されそうな風圧を感じた。
振り向くと、大きく翼を広げる女王と対峙するアルマの姿が見える。
ーーそうだ、彼はまだ戦っているんだ。
このまま小さい体で走り続ければ、見つかることなく無事に逃げ切れるかもしれない。
でも、助かるのは私一人だけで、アルマもエンビも犠牲になってしまう。
「助けなきゃ……」
彼らの元へ戻ろうと咄嗟に体の向きを変えたものの、二歩ほど進んで足が止まる。
私が戻ったところで、あの恐ろしい怪物から彼らを救うことなどできるはずもない。
居ても足手纏いになるから逃がされたのに、今更現れても迷惑なだけじゃないか。
再び出口を目指そうと風に背を向ける。
これでいいんだ。これで……これで、本当に……
「私のバカっ、これでいいわけないじゃないっ!」
悪女なんて言われるのはもう慣れてるけど、悪は悪でも親しい人を見殺しにするような非情で弱虫な悪じゃない。
そして今、この手には戦うための武器がある。
彼らの戦いで生じた空気の流れがちっぽけな私を外の方向へ押し戻そうとするけれど、それに逆らいひたすら前へと突進した。
「次はこっちだ!」
「ふん、どこを斬っても同じだ。脳や心臓を潰したとしても妾は死なぬ」
妖刀ダインスレイフで鳥人の女王の体を斬りつけるアルマだったが、聖杯が齎した不死身の力によって無限に再生してしまうため、勝利は絶望的に見えた。
「ダメージと疲労の蓄積で動きが緩慢になってきているぞ?そろそろ楽にしてやろうか」
切断された右脚が再生すると同時に、女王は蹴りを繰り出そうと振り上げる……
チャンスだ。今なら、全体重を支える左脚を攻撃してバランスを崩させることができるはず!
私は全速力で接近し、女王の足に剣を突き刺した。
「いっ……なんだ?」
片足立ちのまま私を見下ろす女王。私の刺し方が悪かったのか、剣自体の切れ味が大したことなかったのか、敵は虫に刺されてチクッとした程度の痛みしか感じていない様子だ。
「ほう、お前は逃げたと思っていた虫ケラではないか。わざわざ死にに来るとは面白い。ひと思いに踏み潰してやるわっ!」
結果としてアルマへの攻撃は阻止できたけれど、今度は上げたままの右足が私に向かって降ってくるーー
最初のコメントを投稿しよう!