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「危ないっ!」
アルマは血濡れた妖刀を両手で持つと勢いよく振り上げ、右脚を斬り飛ばした。
「戻って来るなと言ったのに……」
「あ……」
声帯も小さくなった分、伝えようと口を開いても虫の鳴くような声しか出ない。
私は息を大きく吸い込んで、腹の底から搾り出すように叫んだ。
「暗算石が欲しいと言ったのはこの私。だから、私のために戦うあなたたちを犠牲にして無責任に逃げたりなんかできない!」
こんなに大きな声を出したのは、きっと生まれて初めてだ。
「ルナ、君の覚悟は承知したよ。私の肩に乗って?」
私はすぐ目の前に差し出された彼の手に跳び乗った。
「ここなら私が死なない限りは安全だ。でも、今から私は両手が塞がるから君が落ちても拾ってあげられない。しっかりと髪に掴まってて」
アルマは私を自分の肩に乗せると、霊刀ドルフレーゲンを鞘から抜き、二刀流の状態になった。
「諦めの悪い奴め。何本剣を使おうと勝てぬものは勝てぬ!」
「それはやってみないとわからないよ?」
女王は再び体と繋がった脚を地につけ踏み締めると、両翼を振るい羽根の矢を飛ばしてくる。
「同じ手は通用しないよ?」
アルマは攻撃を見切ると、それらをダインスレイフのみで斬り刻んでゆく……
文字通り彼女の目線に立つことで、私はまるで自分が戦っているかのような感覚に陥った。
「ねえ、ドルフレーゲンは使わないの?」
「元々二刀流には慣れてないし、そもそもドルフレーゲンでは女王を斬れないから使えないんだ」
「だったら何で二刀流にしたの?」
「反対の手に持っているだけで意味があるんだ。血の誘惑を洗い流してくれるからね」
「つまり、ずっとダインスレイフを握っていられるための工夫であって、実質一刀流というわけね。でも、いくら斬っても死なない相手に長期戦を仕掛けても意味がないと思うわ」
「それはどうかな?」
私たちが話している間も女王は蹴りや強風など攻撃手段を変えながら襲いかかってくるが、アルマは次々に捌きながら相手の体の至る所をまるで試すように斬りつけていく。
「わかった! あなたの狙いは暗算石ね」
「その通り。体のどこかにある暗算石さえ奪えば女王はただの鳥人に退化するはずだ。そしたら不死身でも全く脅威にならない」
彼は一度斬った箇所は避け、毎回違う場所を妖刀で確かめるように斬っていた。
「最初に脳天から縦に斬った際に出てこなかったから、右半身か左半身のどちらかにあるはず。だけど、体が大き過ぎて中々ヒットしないから、気長に戦うしかない」
私も実物を見たことはないけれど、暗算石は小石程度の大きさだとされている。
そんな小さな弱点を大きな図体の敵から取り除くのは至難の技だ。
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