16人が本棚に入れています
本棚に追加
「貴様の狙いは魔石というわけか……」
私たちの会話を聞いていた女王は警戒するように身構えた。
私がアルマの狙いをばらしてしまったせいだ……
「ごめんなさい、アルマ」
「いや、でかしたぞ!ルナ」
アルマは勝ちを確信したような笑みを浮かべドルフレーゲンを納刀した。
「今、私たちの狙いを知って無意識に右半身を後ろに引いただろ?暗算石のありそうな場所は左胸、左腰、右肩の三箇所まで絞れていたけれど、これで確定したよ」
ダインスレイフを両手に持ち、アルマは大地を力強く蹴る。
「やっぱり一刀流じゃなきゃ、力一杯斬れないっしょ!」
大きな翼で弱点を覆う女王。血濡れた赤い刃はそれを紙のように斬り裂き、右肩を抉るように貫いいた。
傷口からはきらきらと輝く小さな石が飛び出し、地面を転がってゆく。
「これで女王は弱体化するはずだ!あとは暗算石を回収して逃げ……」
安心したのも束の間、女王の右脚が空を裂き、私たちを高く遠く蹴り飛ばした。
「それで勝ったつもりか?」
女王は暗算石を失っても弱くなる気配が微塵も感じられない。
「魔石は成長促進剤のようなもの。持つ者の潜在能力を爆発的に開花させるためにある。一度女王として進化したこの肉体と知能は魔石を失ったとて衰えはしない」
「だったら何でさっきは右肩を庇ったんだ?」
「それは、お前ら人間が手にすれば同様に進化してしまうかもしれなかったからだ」
アルマは暗算石を奪い取るのではなく、敵の体外に排出させることのみを狙っていた。
もし奪い取ることができていたら、鳥人の一般個体と女王のような桁違いの強さになれたというのだろうか?
「残念だけど、ここまでのようね……」
アルマは傷ついた体を起こすが、さっきまでとは違って力が全身から抜け切っていた。
「アルマっ、諦めるの?」
「考えていた策は全て潰えた。ルナ、あなただけでも逃げて」
「そんな!今更逃げるなんてできないよっ」
いつだって余裕綽々とした態度で危機を乗り越えてきたアルマ。そんな彼がまるでか弱い乙女のように気弱になってしまうなんて……
「まだ勝機はあるわ!暗算石さえ見つければ、女王に負けないくらい強くなれるかもしれない」
「私はあんな化け物になってまで勝ちたくはない。人であることを捨てるなら死んだも同然よ」
もし暗算石を拾ったとしても、その力を使って戦うのは彼になるだろう。
この状況を切り抜けたとして、女王の発言が本当なら一度進化した体は元には戻らない。
私は、化け物になった彼と結婚できるだけの覚悟があるだろうか?
最初のコメントを投稿しよう!