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アルマはすぐに間合いを取ろうとするが、接近し過ぎていたせいで退避が間に合わず、長く太い尾を叩きつけられ吹っ飛ばされてしまった。
鳥人の女王との激闘を制した直後で満身創痍の彼には咄嗟に受け身を取るだけの瞬発力も残っておらず、そのまま地面へと打ちつけられてしまった。
「私たちには時間がないんでね。さあ、そいつを寄越しな」
横たわるアルマから暗算石を奪おうと手を伸ばしてくるプラム。
近づいてくる指先を小人の剣で思い切り突くと、彼はびっくりしたような声を上げて手を引っ込めた。
「虫刺されか……? 蚊にしては随分と痛いな」
「私よ!」
「ダメだ、隠れてなくちゃ……」
「いいえ、こんな卑怯者の花嫁なんて御免だわ。プラム=ダイナゴン。お前を花婿候補から除外する!」
小人の剣を放り投げ、私は驚くプラムの前で元の大きさに戻って見せた。
「まさか、お嬢様も居たとは……」
「小さくなっていたから気付かなかったでしょうけど、アルマに我儘に言って連れて来てもらってたのよ。お前のように不正をする者が現れないか見張るためにね!」
こうなったらもう暗算石なんてどうでもいい。卑劣な手を使ってそれを持ち帰ったところで、私のために命懸けで戦った男たちに勝てる筈がないのだから。
「ピ、ピーチ様!計算外の事態が……」
「ならば、作戦変更だな。ここで全員死ぬがいい」
え? 喋れたの?
ピーチという名の竜は、見た目からは想像もつかないような少女のような声を発すると、私たちに向かって無数の火球を吐き飛ばしてきた。
透かさずアルマがドルフレーゲンで炎の弾幕を消し去るが、竜の背にはいつの間にか誰の姿も見えなくなっている……
「後ろだ!」
エンビの声で背後からの奇襲を察したアルマは、振り向き様に水の霊刀でプラムの竜化した右手の攻撃を食い止める。
「中々やるね。炎は目眩しだったか」
「そして、今の攻撃も目眩しだ」
「何っ?」
プラムの硬い鱗に覆われた右手をドルフレーゲンで受け止めるアルマ。彼は鍔迫り合いの状態で動けない。その背中を見ている私。そして、その後ろには竜がいる……
私は何て馬鹿なんだろう。私が姿を見せた瞬間から、本命は私の命だったのだ。
正体がバレてしまった以上、彼らには私を生かしておく理由などなくなってしまった。
気が付いた頃にはもう遅く、槍のように尖った竜の尻尾の先端が私の心臓目掛けて猛スピードで向かってきていた。
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