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死を覚悟して、目を閉じる。死の間際には走馬灯が見えると言うけれど、そんなものは全然みえなくて、ただスローモーションで鋭利な尾がこちらへと近づいて来るだけだ。
「ルナお嬢様!」
鈍い音がすると共に、赤い血飛沫が私の顔にかかる。
「エンビっ!」
彼は間一髪のところで身を盾にして私を守ってくれた。私の命は助かった。けれど……
「次はその娘だ。覚悟しろ!」
アルマは竜の二撃目から私を庇おうとするも、竜の手でドルフレーゲンの刀身を掴んで引き寄せられ、動きを封じられてしまっている。
小人の剣を拾い上げられるだけの余裕もなく、私はただエンビの体から引き抜かれた尻尾が襲い来るのを待つしかなかった。
そして、いよいよ私の命も終わろうかという時、花火が弾けるような音がすると同時に竜の全身が砕けて無数の鱗が周囲に飛散した。
「もうっ、あともう少しのところだったのに!」
悔しがる少女の声ーー赤く大きな竜の体はまるで何かの術が解けたかのように消滅し、小さな女の子が中から現れた。
「ピーチ様、ここは一度退きましょう」
プラムはアルマとの戦いをやめて竜の中にいた少女・ピーチを抱きかかえると、超人的な跳躍力で岩壁を駆け上がりながら鳥人の巣の外へと逃走した。
「エンビ!しっかりして!」
私たちにはこれ以上敵を深追いするだけの余力など残っていない。
そして、目の前には胸部から血を流し青ざめた顔で倒れる幼馴染がいる。
「……お、嬢様。私は、幼い頃からずっと、あなたのことが」
「喋らないで!体力を無駄に消耗するわ。手当をするから黙ってじっとしてて!」
私は止血を試みようと衣服の一部を千切って長い布を作ったものの、医療行為なんてしたことがないからどうすればいいのかがわからない。
「アルマ! 外にいるアベストスを呼んで来て! 彼なら処置できるかもしれない。早くっ!」
私はアルマが持っていた暗算石を再び彼の手に戻して握らせた。
しかし、立てるくらいにまで回復したさっきのようにはいかず、彼は力なく倒れているだけだ。
「ルナお嬢様!」
「そこに倒れているのはエンビか?」
アルマが外へ向かおうとすると、丁度応急手当てで一命を取り留めたピエールとその施術者であるアベストスが中へと入って来た。
「早くっ!彼の命が危ないの……」
アベストスは包帯や薬を地面に並べて可能な処置は全て施したが、それでもエンビの容態は変わることがなかった。
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