0. 西の都の訪問者

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 「負け犬の話を聞きたいっていうのか?いいだろう」  隻脚の酔いどれは目の前に置かれたグラスになみなみと注がれた果実酒を一気に飲み干すと、酒気混じりの吐息に言葉を乗せて酒場の住人と化すまでの経緯を話し始めた。  「オーキナー卿の一人娘ルナは17歳。この都の世間一般で見ればもう結婚していてもおかしくない年齢だ。だから、跡継ぎが欲しいオーキナー卿は早く婿を取らせようと必死になっているんだ」  「だったら今は絶好のチャンスね!」  「待て待て!話は最後まで聞けよ?」  ビアンカからの圧に戸惑いながらも男は話を続ける。  「ルナはこの都で一番の美少女だ。その上大金持ちとくれば、結婚したい男は山ほどいる。オーキナーが最初に花婿を募った時、まるで城みたいな大豪邸の広間が埋め尽くされる程の人数が押し寄せたんだ。だが……」  男は何かを思い出したかのように歯を食いしばり、カウンターを拳で叩いた。  「彼女は求婚者たちを(ふるい)に掛けるべく様々な条件を提示してきた。最初は自分よりも高身長であること、顔貌が醜くないこと、定職に就いていることなどを基準に足切りが行われ、花婿候補は15人程に絞られた。ここまではまあ許せる範囲だ」  話しながら、男は空になったグラスを店主に差し出し果実酒を求める。  「残った15人の男はこの都でも選りすぐりのいい男。そんな俺たちに、宝物を持って来て愛を示せと言い出したんだ」  「プレゼントってこと?男を厳選する手段として間違ってないと思うわ」  「確かにそうかもしれない。最初は彼女の好みに合いそうなアクセサリーだとか、お気に入りのお菓子だとかをフィーリングで買って来るというものだった」  「センスが合うかどうかはこれから人生を添い遂げる上で大事だもんね」  「的外れなものを持って来た者たちは脱落していき、俺は何とか6人にまで残ることができたんだ。だが、ここまでくると他の奴らも強敵揃いで、どれだけ貢いでもなかなか決着がつかなかった」  店主に注いでもらった果実酒を飲み、男は声を張り上げる。  「そして遂に、あの女はとんでもない無理難題を提示してきたんだ!今までは結婚さえ叶えば元が取れると思って多額の散財も厭わなかったが、身に危険を伴う要求となれば話は別だっ」  新しく注がれた筈の果実酒は、もう一滴も残っていなかった。
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