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「……ルナお嬢様。私にとっての幸せは、あなたが幸せでいてくれることだった」
「ちょっと、いきなり何を言い出すのよ」
「花婿候補を募るとなった時、現れたのが曲者揃いで、本当に彼らなんかがお嬢様を幸せにできるのか心配になりました。訳の分からぬ男にルナ様の未来を委ねられはしない、自分が幸せにするんだ……そう思ってここまで競ってきました」
「何でそんなこと打ち明けるのよ、まるでもうすぐ死ぬ人みたいじゃない」
「使用人という立場にこれまで何度も苦しんできました。もし生まれ変わったら、アルマやアベストス、ピエールみたいなお嬢様の婿に相応しい身分に……なんて思ったこともあった」
エンビの頬を一筋の雫が伝う。その涙は、彼の言葉が全て偽りのないものであることを物語っている。
「でも、今はお嬢様の使用人で良かったと感じています。誰よりも身近で見てきたからこそ、ルナ様のことを好きになることができた……あなたを守って死ねるのなら本望です」
「待ちなさい! これは私の命令よっ! 生きなさい!」
「今……まで、あり……がと…………う」
それが、彼の最期の言葉だった。
私は彼の体を何度も揺すり、何度も名を叫んだけれど、その魂はもうそこにはなかった。
この日、エンビ=スワロウテイルは帰らぬ人となった。
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