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それから数日が過ぎ、私はいつの間にか西の都に戻っていた。
アルマたちが連れ帰ってくれたようだけど、彼が絶命してからのことは正直あまり覚えていない。
ただ、帰還した彼を燃える火の中へと送る前、握った手が冷たかったという感触だけは微かに残っていた。
私は人を殺してしまった。それも、私のことを本当に想ってくれていた、たった一人の大切な人を……
アルマは花婿候補から身を引いてしまったのか、都に帰って来てからは姿が見当たらない。
私が住んでいる屋敷も何故か一部が瓦礫だらけになっていて、連日大工が慌ただしく出入りしている。
でも、そんな変化も小さく感じれるくらいに、今の私にとって失ったものの大きさは計り知れないものだった。
昼も夜も、ただ窓の外を眺めて時間を消費するーー今までの暮らしと何も変わらないようでいて、全然違っていた。
見える景色の向こうに広がる未知の世界への期待は、手招きをする死神の見せた幻影に過ぎなかった。
鳥籠の中の鳥が外では生きていけないように、私は一歩を踏み出すべきではなかったのだ。
永遠に醒めない冷たい眠りについた彼。私のために命を投げ出してくれた彼。
私の命には、そこまでして救うだけの価値が果たしてあったのだろうか?
私だけ、温かな寝床で醒めようと思えばいつでも醒められる浅い夢に浸ることなんて許される筈がない。
それで罪が償われるとは思わないし、彼が帰って来るわけでもないけれど、私には雲の流れをただ見つめ続けることしかできなかった。
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