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あれから睡眠だけでなく食事も一切取らずにいた私の身体は遂に限界を迎え、絨毯の敷かれた床へと音を立てて倒れた。
ーーやっと、死を以って償える。
私の意識は真っ暗な闇の中へと吸い込まれるように落ちていった。
「お嬢様……」
聞き覚えのある声だ。
「ルナお嬢様……」
夢枕に立つ黒い影ははっきりと顔が見えないものの、その輪郭は間違いなくエンビだった。
「お嬢様、どうか私の死を悔やまないで。あなたには幸せに生きて欲しい。……でなければ、私があなたを救った意味がなくなってしまう」
これは彼の声なのだろうか? 否、これは私の見ている夢だ。
死を悔やむなだなんて夢の中で彼の幻影に言わせて、私はどこまで悪い女なのだろうか?
その言葉で自分を正当化して立ち直ることをしてしまったら、人間としてお終いじゃないか?
「お嬢様、何か勘違いしていませんか?」
「勘違い……?」
「あなたが本当に苦しんでいる理由についてですよ」
「それは、大切なあなたのことを失ってしまったから……」
「それを勘違い……いや、厳密には勘違いのフリをしているだけだと言ってるんです。あなたは本心を分かっていながらそれに封をしているだけだ」
「どういうことよ、何が言いたいのよ!」
「人を好きになるっていうのは自発的な感情の変化だということ。相手が自分を好いているからどうかなんて関係なく……ね」
彼は私のことが好きだった。これは紛れもない事実だろう。その気持ちを知っていたからこそ私は彼を切るに切り捨てられなかったのだ。
けれども、私は内心彼に対して少なくとも恋心は抱いていなかった。どちらかと言えば、家族愛や友情に近いものだったと今になって思う。
彼の私を想う気持ちと、私の彼を想う気持ち。その二つの間にはギャップがあった。
相思相愛でないのにも関わらず命懸けで守ってくれた彼が不憫で仕方なかった。
そして、それは彼への自己投影による自分への哀れみでもあった。
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