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脂の乗った上質な肉や温室で育った甘みのある野菜が喉を通るたび、"生きている"実感が全身に染み渡る。
庶民には決して飲めないような高級な茶葉を煎じた紅茶は、虚無感に包まれ冷えていた心に温もりを取り戻させてくれる。
誰も見ていないとはいえ、作法を二の次にして食べるなんて十数年ぶりのことだった。
「ご馳走様でした」
"いただきます"を忘れるくらいの空腹感はすっかり満たされ、アルマと冒険に出た日以来の活力が全身に漲ってくるのを感じる。
全てを平らげた私は布巾で口元を拭い、鏡台の前で身なりを整えた。
漆黒のドレスに身を包んだ少女はまだ少しやつれた顔をしていたけれど、その深紅の瞳にはこれまで感じたことのないようなエネルギーが溢れている。
「行ってらっしゃい、私」
目の下のクマを化粧で少し隠すと、私は自室を出て父の執務室へと向かった。
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