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廊下を歩いていると、大工たちが汗水を流して壁の修繕をしている姿が目に入った。
そういえば、なんで屋敷が部分倒壊したんだっけ?
「ご苦労様」
「お嬢様、ありがとうございます!」
執務室まで行くには遠回りだったものの、私は敢えて彼らの側を通って様子を見た。
私はこの屋敷の住人でありながら、広過ぎる故に普段の生活で来る機会のない場所がいくつか存在していて、この付近はその最たるものだ。
確か、ここには重厚な扉で閉ざされた"宝物庫"があった筈だ。
「まさか、家宝の剣が……?」
アルマが求めていた霊剣サラマンダイトは炎の精霊の力を宿していると云われる代物で、この屋敷にあるどんな財産よりも厳重に保管されていた。
「ルナ、ここはまだ修繕が不完全だ。近付くと危ないぞ」
立ち止まる私の後ろから、優しい父の声が聞こえてきた。
「お父様、これは……?」
「ルナ。これは花婿候補の中にいた裏切り者の仕業だ」
「そんな! いくら刀剣好きだからって、彼がこんな破壊行為をするなんて思えないわ」
「何を勘違いしている? これは人であることを捨てて竜の配下となったプラム=ダイナゴンの仕業だ」
剣が目当てということは、アルマが犯人なのか?ーー咄嗟に彼の顔が浮かんだ私だったけれど、父の言葉に安堵し胸を撫で下ろした。
……と言うことは、プラムの目的も炎を宿す霊剣だったのだろうか?
「ルナ。あの剣を奪われてしまったことで我々人類は非常に不味い状況に陥ってしまった」
「どういうことなの?」
「そもそも霊剣サラマンダイトの実物を見たことがないんだったな。あれには深紅の炎を宿した宝玉が埋め込まれているのだが、プラムの……いや、その主である竜の目的はそいつだったのだ」
あのピーチという名の子竜と私との因縁は、そもそも私が求婚者たちに竜玉を取りに行かせたことが始まりだった。
プラムが持ち帰って私に献上してくれた竜玉なら私の部屋の棚で今も煌々と輝いている筈だけど、それには目もくれないで剣についた宝玉を狙うとは……
私は急いで自室へと走り戻った。父の言葉に、あることを試さなければ気が済まなくなったのだ。
竜が持つ竜玉は非常に硬く、人間の力で壊すことは可能だと言われている。
もしプラムが持ち帰ったものが偽物だったとしたらーー何回騙されても学習せずに偽物を掴まされるアベストスのことを笑っていられる立場じゃない!
食器類が片付けられて綺麗になった部屋に駆け入り、私は棚の上で硬く玉を力一杯に床へと投げつけた。
「やっぱり……」
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