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「その剣、もしかして……」
自分でも読めないくらいに見事な剣捌きは、アベストスの目を釘付けにしていた。彼はこの剣に何か心当たりでもあるかのような眼差しだ。
まるで意思を持っているかのように自動で私の身体を操り闘ってくれるこの剣は、一体何なのだろうか?
「ふう、これで最後ね」
土竜人たちを全滅させると同時に体の感覚が戻り、私は手足が自由に動かせるのを確かめた。
「ルナ様、その剣はもしかして"導師の剣"では?」
「導師の剣?」
「大昔、剣神と呼ばれた偉大な剣士が使っていた剣だよ。その剣士が没してからも代々凄腕の剣豪たちが振るってきたんだけど、数多の達人に愛用されるうちに剣自体に太刀筋の記憶が宿ってどんな素人でも巧く扱うことができるようになったと云われているんだ」
成程、それならさっきの体が勝手に動いて敵を全滅させることができた奇跡的な現象にも説明がつく。
「それにしても、どこでその剣を?」
「アルマが私にくれたのよ」
「そうか。あの時の炎を斬った剣といい、人智を超えた凄い剣を複数所持している彼はもしかすると……」
「もしかすると?」
「いや、きっと思い違いだ。気にしないで」
「言いかけてやめるなんて、余計に気になるじゃない! 言いなさいよ!」
この前の二人旅で野宿をした時、アルマは過去の冒険の話をたくさん聞かせてくれたけれど、その正体については依然として不明な部分が多かった。
なぜ剣を収集しているのか? 出身はどこで
家族はいるのか? どこで剣術を学んだのか?
只者ではないということだけは確かだけれど……
アルマのことが気になる私は、そんな彼について何か心当たりがありそうなアベストスを問いたださずにはいられなかった。
「彼はあれだけの強さがあって凄い剣もたくさん持っているけれど、それなら普通に考えて名前くらいは風の噂で聞いたことくらいあるはずだと思うんだ。でも、アルマなんて名前は花婿争いに参入してきた時に初めて知った」
「確かに、物流だけでなく情報の中心地でもあるティグリスの都なら、彼ほど実力のある冒険者の名前くらいすぐに伝わりそうなものよね」
でも、私がアルマと旅立つ時、父は彼のことを知っているかのような様子に思えた。マイナーなだけで知る人ぞ知る名剣士なのではないだろうか?
「けれども、この名前なら一度は聞いたことがあるんじゃないか? 刀剣蒐集家・ビアンカの名を……」
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