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私たちと逆行するように流れる白い雲、背中から照りつける太陽の光ーーその全てが、今回の冒険が楽しいものではなく過酷なものであることを伝えてくれていた。
吊橋を渡って川を超え、家宝の霊剣を奪ったプラムたちが飛び去ったという東の方角へとひたすら進んでゆくと、やがて針のように尖った岩が無数に並ぶ迷路のような山岳地帯へと足を踏み入れた。
「ここは、北にある竜の住処に似ているな……」
静寂な空気の中、アベストスは警戒した様子で剣を鞘から抜いて私の前を歩く。
いつも飄々とした彼が浮かべる緊迫した表情から、かつて私の命令で竜玉を取りに行った花婿候補たちの戦いがいかに過酷なものだったのかが窺い知れた。
「なんだか熱気を感じない?」
「危ないっ!」
遠くの方から熱い空気が流れてくるのを感じた瞬間、岩陰から巨大な火球が飛んできて、間一髪でアベストスが私を抱え避けてくれた。
「何だ、お前らか。プラムを見なかったかしら?」
炎が飛んできた方向を見ると、そこには鳥人の巣で見た半竜半人の少女の姿があった。
手には杖を持っていて、その先端には一箇所欠けた本物の竜玉が紅く輝いている。
どうやらまだ霊剣サラマンダイトに埋められた最後の一欠片との融合を果たせていないようだ。
「プラムなんて知らないわよ。はぐれちゃったの?」
「急に霧が深くなったと思ったら姿が見えなくなったのよ。あの役立たずがっ」
どうやら敵は分断されてしまっているようだ。これは私たちにとって好都合……
「お前ら程度なら竜の姿になるまでもない。竜玉を狙う者はみんな灰にしてやるっ!」
好都合なんかじゃなかった。杖を振るい、竜玉から発生させた巨大な火球を飛ばしてくるピーチ。私たちにはそれに対抗する手段など一つもないのだから。
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