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今、彼女が片手しか使えないということは、防御が攻撃のどちらかしかできないということ。
そして、炎を斬る"守り"の剣を彼女が持っているということは、"攻め"を担うべき者はこの私しかいないということだ。
敵は炎を吐いている間、口を開けているから牙は当然使えないし、両前脚を強く踏ん張っているから爪も振るえない。尻尾も先端は斬られている。
つまり、隙だらけというわけだ。
あとは、たった今足元から拾い上げたこと響剣ビブレイドを使ってーー導師の剣みたいに導いてくれないこの剣を、私だけの力で操って目の前の竜を倒す!
幸い、まださっきまでの達人の動きの余韻が全身の筋肉にうっすらと残っている。
今なら、一回くらいは再現できるはず!
私はピーチの首元目掛けて飛びかかり、無心で響剣を振りかぶった。
「や……やった?」
生まれてから17年間、こんなに心拍数が上がったことなど一度でもあっただろうか?
首を飛ばすまではいかなかったけれど、私の一撃が致命傷となって竜は大きな音と砂埃を立てながら地面へと激しく倒れ込んだ。
ついこの間まで御伽噺や過去の伝承でしか知らなかった魔族最強の種を、この手で討ち倒すことができたのだ。
「エンビ。あなたの仇討ち、果たせたわよ」
思えば、彼が命を落とす結果になったのも、元々は遥か北の地でひっそりと暮らしていたこのピーチという竜に喧嘩を売りに行ったことが始まりだ。
つまり、竜玉が欲しいなんて彼らに言った私のせい。だから、これは仇討ちでもあると同時に自分の過ちの精算でもある。
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