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私は横たわる竜を見ながら勝利の味を噛み締めていたが、まだ竜人たちが周囲に残っていることを思い出し、再び響剣ビブレイドを持つ手に力を入れようとした。
しかし、私の両手はぴくぴくと震え、さっきのように力が入らない。それどころか、先程まで平気だった剣の重さが倍くらいに感じられて私は響剣を手から落としてしまった。
「大丈夫、戦いはもう終わってるみたいだ」
アベストスは放心状態のまま動かなくなっているプラムやその他の竜人たちを指さしながら言う。
しかし、元の姿に戻らないのは何故だろうか? 伝承や魔族図鑑なんかで得た知識だと主である竜が命尽きればそのしもべたちはすぐに鱗が落ちて人に戻るはずなのだが……
「まさか!」
倒れていたはずの竜の背中が動くところが目に入り、私は絶望の2文字が頭に浮かんだ。
敵はまだ生きている!
「気をつけて! さっきの一撃では死ななかったみたい」
「あんし……んしろ。わた……しはいずれもう、死ぬ。ただ、最期に礼が言いたくてな」
喉笛から空気を漏らしながら声を振り絞るピーチ。その眼差しにはもう戦意は感じられなかった。
「竜の姿で死なせてくれて、ありがとう……」
紅き竜はその言葉を最期に動かなくなると、全身を覆う鱗が弾けて少女の姿へと戻り、一部分の欠けた竜玉がその側へと転がった。
「元に、戻っちゃった……」
ピーチもまた私の我儘に振り回された被害者の1人だったのかもしれない。私は視界が潤み、横たわる半竜半人の少女の亡骸を直視できなかった。
「いいえ、最期の瞬間は確かに竜だったわ。彼女は竜のまま生涯を終えることができたのよ」
借り物の衣を羽織ったアルマが私の肩に手を置いた。
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