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ピーチの絶命と同時に、その下級眷属たる竜人となっていたプラムたちは体から鱗が剥がれ落ちていき、人の姿へと戻った。
しもべだった頃の記憶は人の心を取り戻してからも鮮明に残っているようで、ある者は私に感謝の意を述べ、またある者は襲いかかったことを謝罪してきた。
「お嬢様、私は何ということを……」
花婿候補だったプラムは、先の鳥人の巣での戦いのことも含めてひどく後悔しているようで、青ざめた顔で頭を下げに来た。
「プラム。あなたは誰も殺してはいないし、他のみんなみたいに操られていただけ。元々は私が竜玉なんかを取りに行かせたのがいけなかったの。ごめんなさい」
「お嬢様……」
プラムは涙を流しながら家宝・霊剣サラマンダイトを鞘に納めて手渡してきた。
「ごめん、今は他にも剣を持ってるからこれ以上は重くて持てないわ。家に帰るまではあなたが持ってて」
私は一時的に手放していた導師の剣を拾い上げるため、響剣ビブレイドをアルマへ手渡そうと声をかけた。
「ねえ、アルマ」
「ごめんね、ルナ。もうわかってると思うけど、私はアルマじゃないんだ」
男装の麗人は俯きながら私に背を向けた。
「ええ、知ってるわ。もしかして、巷で噂の刀剣蒐集家・ビアンカさんかしら?」
「そうよ。私はそこの彼が今持ってる炎の霊剣を手に入れるために名も性別も偽ってあなたに近づいた。完全な竜になるためにその剣を求めたピーチと根本的には何も変わらない悪人よ」
彼女には私のことなんて家宝の剣のおまけでしかなかった。
でも、それはお互い様だ。
私にとって彼……いや、彼女が冒険のおまけだったみたいに。
「アルマ……じゃなくてビアンカ。あなたが私を好きでも嫌いでも、あなたが善人でも悪人でも、男性でも女性でも関係ないわ。純粋に、あなたの勇姿を見てカッコいいと思ったことは事実だし、世界を旅して剣を集めるあなたの自由さと強さに私は憧れを抱いているの」
「ルナ……」
「さあ、帰りましょう!ティグリスの都へ、みんなで」
ビアンカが響剣を受け取ってくれると、私は落ちていた導師の剣を手に取った。
「ちょっと待って!帰る前にひとつだけお願いがあるの」
都を目指して歩き出す前に、私たちは大きな穴を掘ってピーチの亡骸をそこに埋め、墓を作った。
弔うための花はどこにも生えていなかったから、代わりに愛用している薔薇の髪飾りを外して墓前に添えた。
「さあ、今度こそ帰りましょう」
こうして、私の2度目の冒険は幕を閉じた。
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