頑陋至愚のアルチュール

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 その拒否権さえも、拒否理由が正当ではないと司法で判断された場合は却下されてしまう。皇帝であるのに法律の一つも独断で決められない、嫌いな人間を好きなようにクビにしたり処刑することもできないなんてあまりにもおかしなことではないか。自分が現代日本にいた時に見てきたラノベやアニメとはあまりにも違う。俺は憤慨せざるをえなかった。 『陛下。……お忘れではありませんか』  家臣の一人が、俺のことをそう諌めてきた。 『確かに、この国の頂点に座するは陛下でございます。この国は陛下のもの。ですが……この国の民の命は、あくまで民本人のもの。陛下といえど、他の誰かにどうこうできるものではありませぬ。妃もそれは同じ。……妃を一人の人間として扱うこともできぬ王に、民がついてくるとお思いか』  何故、そこまで言われなければいけないのか。自分はこの国の皇帝だ、神にも等しい存在と言われて先代から地位を譲り受けたというのに。  そもそも、自分は妃を人間扱いしなかったことなど一度もない。綺麗な服を着せて、ご馳走を毎日食べさせて、綺麗な部屋も布団も用意して養ってやっているではないか。それならその報酬として、妻としての務めを果たすのが筋だろう。たとえ皇帝が代わったからといって、それを拒否する権利など彼女らに与えられていいはずがないというのに。  俺はムカついて、その家臣を降格にした。本当はその場で首を撥ねてやりたかったが、そんなことをしたら皇帝でさえ罪に問われてしまうのがこの国の法律である。追放さえもできないなんて、なんとも理不尽な世界だろうか。皇帝に着任する前に法律を学んでおけばと思わなくもなかったが、現代日本にいた頃から勉強など大嫌いな人間である。異世界転生してまで、勉強なんぞしたくはない。ましてや楽しく楽に暮らすつもりでいるというのに、誰かのために奉仕するなんてまっぴらごめんだった。 ――あーあーあー。女どもの顔面偏差値高いし、この世界こそ楽しく過ごせると思ってたのによお。  中庭で月を見上げて、俺はため息をついた。  まあ、以前の世界で得た“チート大魔術師”の莫大な魔力と魔法も引き継ぐことができず、あまつさえ竜巻を起こすだけの力しかもらえなかった時点で怪しいと思うべきだったのかもしれない。皇帝の地位さえ手に入れれば、今までの不遇が全て解消されるとばかり思っていたのに、実際は毎日仕事しろ仕事しろと家臣どもにドヤされ、ちょっと本気を出して“こういう法律を作れ”と言えば軒並み議会に家臣や議会に却下される日々。  それに加えて、恐らくこの世界でメインヒロインに設定されているであろう美女――晴嵐(せいらん)にはセックスどころか触れることさえ拒否られるとくれば。そりゃあ、俺がやる気をなくすのも無理からぬことではなかろうか。
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