頑陋至愚のアルチュール

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「あーやめたやめた!もういいや、こんな世界どうにでもなっちまえば!」  俺がヤケっぱちになって池に小石を投げ込んだ、その時だった。 「そんな男だから、誰も貴方についていかない。何故それがわからないのですか」 「!」  鈴が鳴るような美しい声がした。いつからそこにいたのだろう、廊下にあでやかな赤い着物の美女が立っている。件のヒロインこと、晴嵐だった。 「なんだ、お前。妃のくせに皇帝の俺に逆らうってのか、あ?」  俺はずかずかと晴嵐の前に歩み寄った。怒りでわなわなと手が震える。  最初に現代日本でトラックに轢かれて死んでから、俺は記憶を保持したまま幾度となく異世界転生を繰り返してきた。  最初の世界はほどほどに楽しかったのだ。神様にチートな魔法を貰った勇者として、世界が手をこまねいていた魔王をあっけなく倒し、世界中の美女に囲まれて楽しいスローライフ生活を過ごした。だが、それもつかの間、酔っぱらって氷が張った湖に落ち、齢三十二歳の若さで死亡。俺は悔しくて、死の間際に願ったのである。今度こそ、チート無双の果てに美女に囲まれ、長生きできる世界に行きたい――と。  そして、再び記憶を保持したまま異世界転生。しかし、今度の世界はよりにもよって俺が魔王のポジションだった。確かにチートはできたし世界征服も悪くはなかったが、この俺が悪役というのがいただけない。何より手に入れた美女たちが軒並み俺に懐くどころか怯えるというのが腹立たしい。俺は連中を懐柔するのが面倒で自害した。確信があったからだ、死ねば再びランダムでどこかの異世界に転生できるということが。  しかし。次の世界も、その次の世界も。転生するたび、どこかしらが俺の望みとは違ったものになっていく。チート能力がショボかったり、世界が自分の思い通りにならなかったり、遊んで暮らせるほどの金銭的余裕がなかったり、転生者だというのに現代日本のオフィスワークとさほど変わらない仕事をやらされたり。最初の世界を超えるような素晴らしい世界に、ちっとも巡り合える気がしないのである。まあ、自分の望みが一つでも叶わないとみるや、さっさと自害してリセットを繰り返してきたのは確かだが。 ――それでも、今回の世界は何年もかけて、ショボい竜巻能力だけで頑張ったってのによ!  何で、念願の皇帝につけた後まで仕事しなければいけないのか。美女が自分の虜にならないのか。俺がイライラしながら詰め寄ると、晴嵐は心底呆れたようにため息をついて言った。 「以前、あなたは仰っていましたね。自分には前世までの記憶がある。何度も異世界転生を繰り返して今に至る、と」 「だからなんだってんだ、あ?」
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