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「気に食わないことが一つでもあったら全部消してしまえばいいや。何もかも捨てて新しい異世界に行けばいいや。……所詮そのように思ってらっしゃるのでしょう?自分が努力する必要はない。自分が努力などしなくても楽をさせてくれる、夢を叶えてくれる異世界に到達できるまで転生を繰り返せばいい、と」
「それがどうした、何か間違ってるってのか!?」
何が言いたいのだ、この女は。俺はイライラと足を踏み鳴らす。
「俺は現代日本でな、社畜として死ぬほど会社に貢献して、頑張って頑張って生きてきたんだよ!自分より年下の上司に頭下げて、屈辱的な仕事もたくさんやって、俺の容姿を見下す女どもに物笑いにされながら必死で、必死で……!そんだけ頑張った俺なんだぞ、転生先でご褒美があるのが当たり前だろうが!来世で楽して、モテモテで、チートで、スローライフして……そんな生活したいと思って何がいけないんだ!」
「そんなこと」
その時、晴嵐は初めて笑みを浮かべた。心の底から見下げるような、嘲り以外の何物でもない笑みを。
「そんなこと。この世界だけで生きるわたくし達に、一つで関係があるとお思いで?あなたの前世がどうであったかなど知ったことではありません。前世がどうだったとしても、この世界でそのツケを清算しようとするあなたを受け入れられる人間などどこにいるとお思いで?」
「――っ!」
「努力したくない。働きたくない。気に食わなければ全て捨てればいい。そう思っているからこそ、あなたはわたくし達妃のことも、民のことも、自分を装飾する道具のようにしか思っていない。あなたに媚びを売るのは、あなたの権力や地位に魅かれて甘い汁を吸いたいものばかり。この世界のものを何一つ大切にしようとしないあなたを、一体誰が愛するというのですか?……わたくしは絶対に、あなたのような自己愛しかない身勝手な男を愛さない。愛することなどない……けっして!」
最初はツンデレだと思っていた。
最後は俺と結ばれて、俺をめいっぱい愛して甘やかしてくれる存在になるとばかり思っていた――メインヒロインだったかもしれない女は。憎悪にも近い色をその瞳に浮かべて、拒絶を伝えてきたのだった。
「ねえ、皇帝陛下。あなたこの世界で……いいえ、その前の世界でも、それより前の世界でも。たった一度でも、誰かに“ありがとう”と心からお礼を言ったことがおありですか?自分を生かしてくれるその世界のあらゆる存在に、感謝を抱いたことがあるのですか?」
その軽蔑の眼に。俺は凍り付いたように、身動きすることができなかった。怒りが沸点を遥かに通り越して、さらにその先までぶっ飛んでしまっていたからなのかもしれない。
「わたくしが予言いたしましょう。その意味がわからない限り……あなたは何度転生しても、誰からも愛されない、と」
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