うちには悪魔と天使がいる

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「ぁぁ…………」  今日も今日とて、残業。意地の悪い上司によって与えられた大量の仕事を必死にこなして、へとへとになって家に帰ってきた。  そんな私・鈴村楓(すずむらかえで)は、リビングに一歩入った地点で唖然となっていた。  倒れてカーペットを濡らしている花瓶。  転倒している液晶テレビ。  室内中に散乱する大量の資料。  まるで、嵐が過ぎ去ったよう。おもわず現実逃避してしまいたくなる光景が、そこには広がっていた。 「そんな……。そんなぁ…………っ」  室内の惨状を全て理解した私は立っていられなくなり、へなへなとその場にへたり込んでしまう。すると――  ガサガサッ ガサガサッ  ――カーテンの後ろから、何かが動く物音が聞こえてきた。  ガサガサガサッ ガサガサガサッ ガサガサガサガサッ!  その音は次第に大きさを増し、やがてはバッと。閉じられていた緑色のカーテンが2つに割れ、物音を出している『犯人』が姿を現した。  疲労困憊の私に、更なる絶望を刻み込んだ恐ろしい存在。  その正体は―― 「きゅ~んっ。うにゃ~っ!」  ――カギ尻尾が特徴の三毛猫。  4か月前にこのアパートに迷い込んできて保護した、今やすっかり大切な家族となっているミーちゃん(メス)だ。 「にゃぅ~っ。にゃぁ~っ! ごろごろごろごろごろ」  そんなミーちゃんは私の姿を見て、大喜び。全力で胸元に飛びついてきて、顔をすりすり。喉を鳴らしながら、たっぷり甘えてきてくれる。 「ぅにゃ~。にゃ~っ。ごろごろごろごろごろ」 「あ~、うん、そうだよね。独りぼっちはつまらないし、寂しかったよね? ごめんごめん。ただいま、ミーちゃん」  家に帰ってきても作業があるなんて――。もう最悪――。  そんな思いは、可愛い仕草によってパッと消え去ってしまう。それどころかナデナデによって癒され、能面のようになってしまっていた顔には自然と浮かぶ。 「にゃ~っ。にゃぅ~っ! うにゃ~っ! ごろごろごろごろごろ……っ」 「うん、分かった分かった。明日はお休みだから、今夜はたっぷり遊べるよ。着替えるから、ちょっと待っててね」  そうして私は立ち上がってスーツを脱ぎ始め、 「にゃっ。にゃっ」  足元で尻尾をピンと立てている、ミーちゃん。そんな姿と、いつの間にか顔色が良くなっている鏡の中の自分を見て、今日も今日とて思うのだった。  うちには悪魔と天使がいるなぁ。  と。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!