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怪獣の下痢
「ねえ、バイオリンなんてこんなときでないと弾けないでしょ? やってみようよ」
そんなふうに恋人にうながされる。
「バイオリンなんて触ったこともないよ。どうやって弾けばいいかもわからない」
「大丈夫よ、そんな人のための体験コーナーなんだから」
ちなみに僕は楽器関係はまったくダメだ。小学校の音楽の時間に習うピアニカやリコーダーをなんとか弾いた記憶があるくらい。
それでも僕は演奏体験のブースにいた指導者にバイオリンの持ち方や構え方を習い、なんとか見よう見まねでバイオリンの弦と弓毛を触れ合わせた。
ギュリギュリギュリギュリ。グリャグリャグリャグリャ。
僕のバイオリンが奏でる怪獣の下痢みたいな音に、ブースの前に集まっていた人々は失笑し、恋人もあきれ果てた。
僕にバイオリンを教えてくれた指導者は明らかに困惑していた。いくら初めてと言っても、よりにもよってなんでこんなに弾けない人が来ちゃったんだろう。そう口に出しては言わないが、明らかに表情でそう語っていた。
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