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獰猛さとはかけ離れた
自分で演奏していて、こんなことを言うのもなんだけど、僕のバイオリンの演奏は聴けたものではない。いや、これはとても演奏と呼べる類のものではないと自分でも思う。強いて言えば単なる騒音だ。
でも、このレストランではサメのひび入れ作業を「演奏」と呼ぶので、僕も便宜的に「演奏」と呼ぶ。僕はおよそ三十分間にわたって、バイオリンを「演奏」し続けるのだ。
そんな「演奏」に付き合わなきゃいけないシェフも大変だろうとは思うけど、シェフはサメにひびの入る様子をじっと見つめているから、ある意味では「演奏」を聞き入る余裕もないのだろう。
ひび割れザメは口の先から尾びれの先端まで、その大きさは五十センチほど。体つきはシャープだが、頭は丸みを帯びて獰猛さとはかけ離れたユーモラスで穏やかな顔つき。どちらかといえばナマズを思わせる。海中ではプランクトンを主な餌にしているという。
そんなサメがたいてい二、三匹まとめて天井からぶら下げられている。そんなサメに向かって、僕はバイオリンの「演奏」を続けるのだ。ギュリギュリギュリギュリ。グリャグリャグリャグリャ、と。
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