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街の音楽祭
うちにはひび割れザメがいる。
と言っても、ひび割れザメのことをご存知ない方もいるだろう。ひび割れザメとは高級食材で、バイオリンの音色によって、人工的にひび割れを入れられたサメのことである。
だからもちろん、うちにはひび割れザメがいると言っても、生きた状態のサメではなく、ある程度乾燥させた状態のひび割れザメだというのが正確なところである。
そして僕はこのひび割れザメにひびを入れるために、毎朝のように高級レストランでバイオリンを弾いている。僕の弾くバイオリンの音色によってサメの体にひびが入り、食材としてのひび割れザメになるのだ。
とにかく、順を追って説明しよう。
あるとき、街の音楽祭に僕は恋人とともに出かけた。大通りを通行止めにして、小学生のマーチングバンドやプロの奏者によるステージが繰り広げられる、街を挙げた音楽祭だ。
ちなみに恋人は中学と高校で吹奏楽部だったという。バイオリンは演奏したことなかったが、中学・高校と一貫してコントラバスの担当だったらしい。
「本当はトランペットが吹きたかったけど、希望者が多くて。だからじゃんけんでトランペットの担当を決めたの」
それで恋人は見事にじゃんけんに負け(今でも恋人はじゃんけんに弱い)、誰も希望者のいなかったコントラバスの担当となった。
そんな話をしながら音楽祭を見てまわっているうちに、僕たちはたまたまバイオリンの演奏体験のブースの前を通りかかった。
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