*転がり落ちるふたり

3/3
前へ
/278ページ
次へ
 休日にも土日のどちらかには必ず会いにきてくれて、夜も毎日2時間ぐらい電話で話す。  およそ今まで付き合ってきた、彼氏にですらされたことのないような手厚さで,私は緒川(おがわ)さんに愛されていた。  妻帯者であるはずの彼が、家にいてさえもそんなことができるのは何故なんだろう?と考えたことがないわけではない。  でも……妻は俺に興味がないからね、と言われればそうなのかな?と思ってしまう。  緒川さんがあまりにも私中心で動いてくれることにすっかり慣れてしまって、段々私たちは「不倫」をしているんだ、という感覚が薄れていくようで。  さすがに市内を2人で歩くときに腕を組んだり手を繋いだりはしなかったけれど、ほんの少し市外に出てしまえば、普通の恋人同士のように仲睦まじく腕を組んだり手を繋いだりしてデートを楽しんだ。  休日に2人で県外にお出かけするときなんかは、車の中でもずっと手を繋いでいて――。  こんなに常に触れ合っていたいと思えた人は、初めてかも知れない。 「菜乃香(なのか)に触れていると本当に心が休まるんだ」  緒川(おがわ)さんはそう言ってくれるけれど、それは私にしても同じで。  いつの間にか私は、どっぷりと彼が与えてくれる重すぎるぐらいの愛情に全身浸かってしまっていた。  付き合って欲しいと言われた時に、先制パンチのように投げかけられた、「俺には妻と子供がいるんだ。妻に対して恋愛感情はないけれど家族としての情はある。それを分かって欲しいんだ」と言う言葉を失念してしまうほどに。  私が忘れたからと言って、彼の中でその想いが消えるわけではないと思い知るのは、まだまだ先の話。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

673人が本棚に入れています
本棚に追加