消えない印

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***  以前お母さんに、「ピアスの穴、開けるの痛かった?」って聞いたら、「開けるの自体はそんなに痛くはなかったけれど……後の消毒が大変だったかな」って言われて。  消毒を怠ると傷口が腫れて、熱を持つことがあったという。 「きっと膿んじゃったんだと思うのね」  お母さんは淡く微笑んで、 「そうなるとね、ちょっぴりピアスの軸を動かすのでさえ痛くなっちゃうの。だけどその時に我慢してしっかり軸を動かして消毒しておかないと穴が塞がっちゃうから……。お母さん結構必死に頑張ったのよ」  って、オニキスの黒々としたボールピアスに飾られた耳朶を見せてくれた。 「さすがに今はね、ほとんど膿まなくなったよ」  ニコッと笑顔を向けられたけれど、私は「ほとんど」と言う言葉が気になって。 「お母さん、ピアス開けたのいつ?」  聞いたら「二十歳(はたち)になってすぐだからもう20年以上前ね」って答えてくれて。 「そんなに前に開けたのに膿むことあるの?」  ソワソワしながら身を乗り出したら、「ずっと同じピアスを付けっぱなしにしてたりするとね、汚れが溜まったりしちゃうんだと思うの」とか。  汗をかく夏は特に気を付けないといけないってことだった。 「膿むのを防ぐいい方法、教えてあげようか?」  悪戯っぽく笑うお母さんに、「なにっ?」って聞いたら、「毎日付け替えたいって思えるようなお気に入りのピアスをたくさん持つことよ」だって。
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