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奈良県の葛城山にある葛城一言主神社には土蜘蛛塚という小さな塚があるが、これは神武天皇が土蜘蛛を捕え、彼らの怨念が復活しないように切断した、頭、胴、足と別々に埋めた跡であるといわれる。
梶浦の解説に驚いた素振りで、「へえ残虐ですね」
「でも、それは普通の人間からしたら、痛いから残虐なのだろう?無痛症の我々土蜘蛛一族からしたら、骨まで達する傷でも痛みは無いから、さして残虐でもない」
斑鳩月渚は文庫瑠璃に共感していない様子だ。
今、梶浦学長と斑鳩月渚
文庫瑠璃は、朝日差す西奈良村の海岸線を散歩していた。文庫は九頭竜の胃袋から、昨日、救出されたばかりだ。
九頭竜から受けた講義の続きを、梶浦から施されていた。
文庫が胃袋に呑まれた時、九頭竜は、文庫に言った。我々大蛇と鬼、それだけではなく、天狗や河童も、そもそもが同一の存在ーー君達と同じような能力者だった。
ハルク細胞は外宇宙から来た星空間航行が可能な体質の生命体が地球にもたらしたのだ。
彼等の再生技術は、栄養分を摂取しなくとも分子変換能力を使えば水だけでも生存可能ーーー再生細胞は怪我を負っても急速に回復し、手足の切断についても大量出血は、ものともしない。その彼等は地球においては、神、或いは妖怪と呼ばれ、土蜘蛛、鬼、大蛇等と云う扱いを受けて来たのだ。
梶浦学長が、赤崎屋敷が乗る丘を指差して、「ジグラッドね…」と言った。
空はまだ薄い橙色に雲が光り、日の射さない灰色の雲との境界に紅葉の杉の木と、朝焼けに浮かぶ初春の桜とが眠っていた。
桜が揺れる丘陵の麓には、狩野川が揺蕩う。
「河童、居ますかね?」
「貴女達がそうよ」
「僕、嘴有りませんよ?」
「烏天狗の嘴も河童の嘴も、頭部の中央から鼻先に伸びた粒子が円錐形を成した結果、そう見えたのに過ぎないわ…。そして九頭竜こそ、外宇宙から星空間航行して地球にやって来た地球外生命体。
ハルク細胞は、地球外の母星からもたらされた超生命体九頭竜の遺伝子なの。超生命体九頭竜は人類の親でもあるわ。粒子を操り、恐るべき再生能力を持っている。
親に挑んだヤマト尊は敗れて伊吹山に散った。しかし、ヤマタノオロチに打ち勝った数名の人類があった。スサノヲの尊はその1人」
確か…。アマテラスの弟の。
海神スサノヲは、住吉の神でもあった。
「オリオン座の父神様ね」
「オリオン座?」
「アマテラスとスサノオとの誓いで誕生した宗像三女神、すなわち多岐津姫命・市杵嶋姫命・多紀理姫命の三柱とされ、宗像三女神は宗像氏ら海人集団の祭る神だった」
そして疫病から守護してくださる神様でもある。
「疫病と云うのは、海ーーー港から入って来るものだった。船に乗って来るのよ。
だから航海を司る神様に、その特性があるのは当たり前でしょう?」
「そう言えば京都の祇園祭で有名な八坂神社の神様はスサノヲで、疫病退散に霊験があるとされていますね」
「疫病の神様だもの、当たり前よ。そしてね、スサノヲも鬼なの。
「僕達と同じ能力者の種族ですか?」
赤崎の隣にある、城山岬。ここには前方後円
墳がある。赤崎のジグラッドに前方を向けた巨大墳墓だ。
ーーー彼処には、河童の伝説があるのよ。
「昔、岩崎と云う名家に娘が居たの。ある時、新田義貞の弟と恋に落ちて一児を孕んだのだけれど、その子は河童に川に引き摺り込まれ喪ってしまった。そんな伝承もあるのよ」
「実話ですか?」
「いいえ、此は比喩ね、実際には新田義貞のライバル足利尊氏の手の者に暗殺されたのでしょう」
「尊氏の手の者に円錐形の嘴が有る能力者が居たのですか?」
「楠木正成の手の者ね」
「楠木正成と、足利尊氏もライバル同士では?」
「当時は戦国乱世の真っ只中、誰が誰に寝返りしてもおかしくないわ。
楠木正成は、斑鳩一族にオマジナイを教えた真言宗信貴山派のある信貴山城の築城者との伝承もあるわ。能力者であってもおかしくない。
おかしいのは、楠木正成は橘氏だと云う事。
岩崎家も橘氏の出よ。
岩崎家はポラリスを崇める岩割きの神の血統、此はドゴン族と同じ昴を崇めると云う事」
「橘の神が河童だったなら、それは烏天狗でもあると云う事なのだろう?」
月渚が話しに入る。
「北大将軍星の役小角を崇める種族だ。小角が八咫烏だとする説と符号する。橘は北大将軍星を崇めていたのだ」
やはり、岩崎の娘を橘の楠木正成が殺めるのはおかしい。
「建武の乱の当時、足利直義(尊氏の弟)の意向もあって尊氏は鎌倉に本拠を置き、京都からの上洛の命令も拒んで、独自の武家政権創始の動きを見せはじめた。建武の11月、尊氏は新田義貞を君側の奸であるとしている。
岩崎の娘が殺されたとすれば、この時期だろう」
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