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そして今日は、明らかに後者だった。終電まできっちりと聴き届けてしまうほど夜は更けているというのに、いっこうに微睡みは訪れない。しばらくぼんやりと虚空を見つめていると、カーテン越しに感じられた光の気配が次々に眠りにつくように消えていく。線路の照明が消えたのだろう。明るさが瞼を閉じて、だんだんと闇の濃度を増していく。やがて光は完全に鳴りをひそめた。それでも、何も見えなくなるほどの暗さではなかった。カーテンの襞、ローテーブルの縁、テレビの液晶画面、それぞれの輪郭が白く染まって、無機質にそこにいることを主張している。それらに囲まれるわたしだけが、まるで異物のように思えた。世界でわたしは独りぼっち。静寂にそう言われているような気がした。
寂しさに侵食されるまえに、眠ろう。そう思って枕に顔を埋め直し、目を閉じる。冷蔵庫の唸り、テレビのデータ受信音。機械の音が耳の奥でひそひそと反響する。静寂が、うるさい。寂しさをなぞるように、感覚ばかりが冴えていく。ため息をつくと、すぐに跳ね返ってきて頬に生あたたかい吐息がかかった。
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