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少年はお出迎えする ②
平民と貴族では、立場も責任もまるで違う──そして生まれ持つ威圧感も。
エブランはもともと男爵家の生まれで、スペアにもならない四男坊だ。
すでに長兄と三兄は婚姻して子供がいるため、末っ子の自分が家庭を持つ焦りはない。
むしろ男所帯であるターランド伯爵家警護兵や領兵隊の中で気楽に暮らす方が、自分の性に合っている。
だからと言って自分より入隊した──厳密には保護を兼ねた預り状態なのだが──ロエンが自分の主人になるはずのアーウェンに対して反抗的な態度を取ることを許容してはいなかった。
「だ、だってよぉ……」
「『だって』って、何だ?アーウェン様はターランド伯爵家のご令息だぞ?ご領主であるターランド伯爵様の領都で暮らしている以上、ご令息にも当然礼節を持って……」
「だって!そいつ、領主様の息子じゃねーじゃん!髪の色が珍しいからって、たまたま引き取られたんだろ?そんなら俺だって……」
「『俺だって』?」
エブランの目が座り、カラの目付きも厳しくなる。
『どこの馬の骨』とも言いたげなロエンの主張だが、貴族の縁故関係については出生が届けられる神殿によって管理され、ある程度金銭は必要となるが少なくとも『産まれた』ことと『死んだこと』に関する情報はキッチリ管理されていた。
そのためどの家で産まれ、育ち、誰と婚姻し、死亡し、その子孫はどこの家と縁を結んだのか──貴族家に保管されている家系図とは多少の齟齬はありつつも、信頼のおける出生記録がある。
むしろそれがなければ「貴族の子供である」という主張が通ることはない。
そしてよほどのことがなければ、貴族の家に庶民の子供が引き取られるということも起きないのである。
「……つまり、お前がどんな髪色をしていようが、お前がアーウェン様の代わりになると言うことはない」
「で、でも、だって……」
「それよりも、どうしてお前はアーウェン様が髪色で選ばれたと思っているんだ?ずっと疑問だったが……むしろ何でお前が選ばれると思っているのか、俺にはさっぱりわからん」
「え…ど、どうして……って……アレ……?」
グラッとロエンの身体が傾ぎ、目が痛むように顔を手で覆う。
「だって……本当は間違って……売るはずじゃなかったって……余計なことされたから、戻さなくっちゃいけないって……」
「おい?ロエンっ……」
声も意識も遠くなって──ロエンが最後に霞む視界に写したのは、駆け寄ってくる少年と、さらに幼く顔を恐怖に歪めて身体を動かせずにいる少年で、小さく「ざまあみろ」と呟いて意識を手放した。
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