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少年兵は挑まれる ②
里帰りの翌朝、久しぶりに見たロエンを応援する子供たちがやってきて、エブランとの手合わせを見てワイワイと騒いでいた。
それはロエンを励ます声ばかりで、あまりの人気っぷりにエブランはやや押され気味に打ち合わせてやったが、わざと見せた隙に調子に乗り始めたところで切り崩す。
そんな情けない姿を見てもなお、ロエンに心酔することに変わりはないようだ。
「……何か、おっかねぇな」
「そうか…いや、そう、ですか?」
慣れない敬語を使ってロエンは尋ね直すが、まだ次の手合わせを望む声は多い。
いったい彼の何がそんなに熱狂的な支持を集めるのか──
とりあえずあと三回も地面に這わせれば幻想は消えるだろうと、エブランはブンッと木剣を振り降ろした。
そして心の宣言通りエブランはキッチリ三回ロエンを叩き伏せたが、子供たちの声援は途切れず、むしろエブランを罵る声が増えただけである。
「……アレを怖いと思わず、お前は何を恐れるんだ?」
「……そう、ですね……」
称賛を毎日のように受けていたためロエンはいい気になりはしても、疑問に思ったことはなかった。
だがこうやってしばらく離れてみれば、確かに気持ち悪いほど自分に対する信頼と、敵とみなしたエブランへの罵声がますます募ることがおかしいと思わざるを得ない。
これはまだ数人の子供だったからよいものの、大人だったら──いや、子供でも数が多かったら、さすがのエブランでも気迫は落ちたかもしれない。
「まるでお前に魅了でもされているみたいだ」
「え」
子供は残酷だ。
見た目や体格、少しでも非難できる所を見つけたらそれを徹底的に攻撃する。
エブランの場合は年齢差だとか身長差だとかをずいぶん悪く言われていたが、それは反転してロエンを攻撃もしていた。
てっきりそう言った悪口のことかと思ったのだが。
「だいたいお前が帰ってくるまで、お前のじいさんに安否を尋ねてくる奴はそんなにいなかったらしいじゃないか」
「そ、そりゃあ……」
そう言えばロエンが帰ってきた時もしばらくは誰も来なかったのに、今朝エブランと一緒に家の周辺を走った後はたちまち子供たちが集まって来て、ひと通り運動が終わって打ち合いが始まった途端にロエンを応援し始めたのだ。
「まあ…ご領主様へ報告できるほどじゃないが……一応ここにいるのは三日か四日…そんぐらいだ。ちゃんと部屋の整理して、じいさんにもちゃんと挨拶しろよ」
「え?!お、俺、帰って…いいの……?」
「とーぜんだろ!」
てっきり追い出されるかと思った──ロエンはいきなり言われた帰館予定に驚きながら、エブランの方へ顔を向けた。
大きな手が自分の頭に置かれればその身長差を意識せずにはいられないが、悪い気はしない。
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