序曲

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序曲

 時代は1910年代。  亜細亜地区と呼ばれる場所へ向かっている列車が運行している。その静かな列車の中で一人の少女と、一人の老紳士が座っていた。二人は外から見れば、孫と爺さんといったイメージがつくと思われる風貌であることが伺える。  二人の手はどちらとも、片方だけ手のひらを開き、を持っている。 静かな列車内でその二人はただ時が過ぎるのを、ひたすらに待ち続けている。 列車は待ち続けても、止まらない。少女は、窓の方面を向き、風景を見ながら静かな列車内で独り言のように呟く。 「これで終わりなんだ。楽しいなあ…これで始まる。ふふ。」 わからない独り言はその少女にしか知らない言葉の意味。 列車は止まらない― その手のひらにはおぞましい風貌をした四角い箱を持ち続けて― 走り続けた。           その日、列車は世界から姿を消した。
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