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悪魔の腕を持つ男
亜細亜地区の端にて。
その青年は亜細亜地区の端に位置する小さな村の一つ、何紀村にいた。
「おい、あんた大丈夫か?」
男の名はキッド=ウルフェン、略式はウル。黒のロングコートを着こなしながらも、それに負けじと目立つ骸骨のネックレスを首につけ、チャラく見える格好である。
ウルが話しかけたのは先日、列車失踪事件で巻き込まれたと言われ捜索されている少女だった。
その子の両親となる人も見つからず、ほかの行方不明になっている人たちと違い、目撃した人の声を拾い作られた名前のない捜索絵であった。
話しかけると、少女はその声に応じるように首を縦へと振る。繰り返す。
しゃがみながら、同じ視線の位置で話しつづけているウルにとっては正直めんどくさい出会いだった。
失踪事件が起きたということでここ、何紀村に寄ったウル。そこで偶然会ったものだから当然驚きしかなかった。
「あんた名前は?自分の。」
「名前…?名前…わからない。」
名前は?という質問に少女は、思い出すことが出来なさそうに頭を抱えながら返答する。
どうやら記憶喪失らしいとウルは判断した。列車で何かあったのだろう、とウルはそう考えた。
見た限りどうやらご飯も食べていない様子で、若干やつれてしまっているのがわかったウルは口を開き、名のない少女に再び声をかける。
「とりあえずお腹空いてんだろ?飯、食わせてやるからよ。」
あの後。少女連れたウルは店に来ていた。
「はいよ。お待ち。何紀定食だよ。」
「おい婆ちゃん…これ定食なの???」
何紀村にある定食屋がある。普通の店なら普通の料理が出るはずだが、この世界はちょっと違う。
出てきたのはウルの考えがまったく当たらないもの。どういうモノが使われているのか、言いたくもない。
でも気になっているアナタには言おう。これは、簡単に言うならば化け物の肉を使った唐揚げなどが使われている料理。
うげぇ、と嫌な表情しているウルとは違い少女は違和感なく食べていた。
「お。おい大丈夫なの?死んじゃうかもよ、聞いてる??」
不安げに聞いているウルは少女を見て驚愕している。
今まで何のモノ食べてきたのか聞きたくなるくらいスムーズに食を進めているのを見て、口をあんぐりと開けているこの定食屋に誘った張本人が見つめているのであった。
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